第4話 傭兵の仕事
「あぁ、物品の採取とかもあるのか。争い事に巻き込まれないのはありがたいな」
そんな事を呟きながら羊皮紙を物色していると、妙に視線を感じる。ふと下を向くと、曲げている腰の辺りにしゃがんでこちらを見上げている女の子の顔。
「うわ!?」
驚きのあまり飛び退いて、尻もちを搗くとすくっと立った女の子がそっと手を伸ばしてくる。
「失礼よ?」
怒っている訳では無い、ちょっと苦笑に近い笑顔の少女は思った以上の力で引き上げてくれる。
「ありがとう」
私が告げると、どういたしましてと返ってくる。
「あなた、魔法使い?」
さてどうしようかなと考えて天使が通った瞬間、女の子が言葉を紡ぐ。
「いえ。そうではないです」
ふるふるっと首を振ると、ちょこんと首を傾げる。
「変ね。爬虫類人を無手で無力化するなんて中々難しいわ。しかもあんな飛礫でなんて無理よ」
へぇ……。飛び出した針が見えていたのか。それは凄いと改めてまじまじと少女を見つめる。
年の頃は中学生くらい。身長は百五十センチちょっとというところだろうか。裾の短い貫頭衣に革の胸当てと革のズボン。腰には細身の剣がぶら下がっている。
理知的な瞳が印象的で、少し年を取った猫を彷彿とさせる。少女には似合わない、老成した印象を与える。
「何か御用ですか?」
私が告げるとこくりと頷く。
「隣村で魔物と思われる生物の痕跡が報告されたらしいの。まだ状況が見えていないから領軍から傭兵に偵察の依頼が来ているわ」
「魔物……ですか?」
ベルと夕食を取っている時にふとそんな単語が出てきた。
「あぁ。まぁ、魔物って名前で呼んでいるが、飼っていない生き物の総称みたいなもんだ」
聞くと、二足歩行の生き物でも、意思疎通が出来ない相手は魔物という括りに分類されるそうだ。少なくとも、敵対姿勢を取る相手は全て魔物と見て良いらしい。
日本で言う害獣とかもその分類に入れられそうだな。
「傭兵の仕事つっても、多くは荒事に関係ないが、やっぱり魔物を狩る仕事は良い金になるな」
もぐもぐとパンを頬張りながらベルが告げる。
「手っ取り早く稼ぐならそっちの方向なんですね……」
はむっとスープの木匙を口に含みながら呟く。
「まぁ、一人じゃあ無理だろうよ。習うより慣れろって聞くしな。誰かと一緒なら大丈夫だろうよ。でも、その場合注意するのは……」
「うちで受けようと思っていたけど……」
少女が振り向くと、後ろには三人の男女が立っていた。しっかりした鎧姿の男女と弓を持った女性。こちらの視線に気づくと軽く会釈をしてくれる。
「もう一人後衛を任せられるのがいるのだけど、生憎別で動いているの」
そこでふいっと指先を私に向ける。
「臨時で誰かを誘おうかと思っていたら、思ったより胆力がありそうなあなたがいたの。どうかしら?」
「即決が必要ですか?」
「いいえ。ただ出発は五日後。偵察が依頼だからそんなに報酬も良くない。それでも危険が少ないから参加を希望する人はいると思うわね」
少女が淀みなく告げる。
「それならば、何故私を?」
「んー。さっきの答えで満足しないのなら……」
少し顎を下げ、上目遣いに変わった少女が蠱惑的に微笑む。
「新人さんのお勉強かな?」
軽く話し込み取り敢えず前向きに検討する旨を伝えて、少女と別れた私はカウンターに向かう。
「おはようございます。ご用件は何でしょう?」
「ミリシア及びその仲間に関する情報照会をお願いします。特に仲間と思しきメンバーが死んだ、もしくは行方不明になった案件があれば状況を詳しく」
「仲間詐欺だな」
ベルの言葉が強く頭によぎる。
職員さんにお願いすると明日には調査可能と返事をもらったので、再度依頼を確認する。時期的に果物の収集が多く出ていたのでその内で報酬が良い物を剥がしカウンターに向かう。
「レビの実の収集依頼を受けたいのですが、実物を確認出来ますか?」
そう告げ、実物をスマホで写真に収め、行政庁舎を後にする。さて、町の外はどうなっているのだろう。