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第37話 一重積んでは父のため

「一重積んでは父のためー……二重積んでは母のためーっと。うぐっ!?」


 膝を使った重量物の扱いをしているといっても数が数ということで、腰に鈍い痛みが走る。縄梯子を下りた空間から五分程歩いた場所。ここを戦闘拠点と決めて土嚢を積み始めた。

 坑内の広さは三メートルほど。このままスケルトン勢を相手にするとなると足止めしきれない恐れがある。下手をすれば回り込まれて骨の仲間入りだ。その対応として土嚢を左右に一メートル幅程度に積んで隘路を作ってみた。

 LEDランタンに照らされる土嚢の小山は一メートル程の高さだが、がむしゃらな突進程度では抜けない堅牢さを誇っている。小鬼や鬼程度、ましてや風化で脆くなっているのであれば十分だろう。


 ミリシアはというと、現在坑内を出て新兵器の取り回しの練習中だ。新兵器と言っても何の事は無い。小学校の強い味方、刺股(さすまた)だ。(おおやけ)の施設などで不審者を取り押さえる用途に使われる。消防署の地図記号を思い浮かべれば分かりやすい。現場では取り回しのしやすいアルミ製や木製などが現在主流だが、うちで取り扱っている品として打撃用途に使える鉄製のものも用意している。一部の設備、銃などが扱えずかつ流血を避けたい現場などで鎮圧用途に取り扱っている品だ。打撃を与えた後、そのまま壁に激突させて無力化すると聞いている。長物はやはり近接戦で有利なのだろう。


「うわぁ……。面白い。こんな壁がすぐに出来るのね。ん? ふぅん。麻で袋を作っているの? これ、凄く高そう……」


 腰をとんとんと叩きながら自分の成果を眺めていると、背後からミリシアが接近してきて土嚢壁を叩き始める。


「新しい装備の方は慣れました?」


 問うてみると、すっと姿勢を正し、ひょうっと風を切りながら刺股を勢いよく突き出す。やはり長い事傭兵として戦闘をこなしているからか、槍の名手のように様になっている。


「少し重いけど、これ便利ね。衛兵とかがこぞって買いにきそうよ?」


「そうですね。少数の犯罪者をお互いに無傷で制圧したい時は有効だと考えます」


 私が答えると、ミリシアがふんふんと気合を入れながら小刻みに刺股を振り、ずさっと擦過音を足元から上げながら打ち込む。


「前が適度に重いから打突の効果も高いわよね?」


「現場で使う場合は軽い素材で取り回しを良くする方向性でした」


「ふぅん……。痛い目を見ないと反省しないと思うのだけど。そういう人って」


 ほやほやと爬虫類人の男性の顔を思い浮かべながら、慌てて打ち払う。


「まぁ、大丈夫そうですね」


「そうね。少しずつ釣り出して処理するのよね? 休憩を挟むなら問題無いわ」


 ミリシアがふんすと力こぶを作りながら気合の入った表情を浮かべている。残念ながらこぶは殆ど見えないし、気合の入った表情はぷっくり頬が膨らんでいて可愛い。


 取りあえずの方針としては、土嚢で作った壁までスケルトンを引っ張ってきて足止め。背後からミリシアが刺股で打撃を与えて止めを刺す形だ。

 奥の全容を確認したかったが、天井の高さを考えるとドローンを飛ばしての偵察は難しい。ならばラジコンで地上からと考えてみたが今度は搭載出来る光源の出力が低く画像が荒くなりすぎて訳が分からなくなる。軍用の地上走行ロボットも選択肢としてはあるのだが高価すぎて手が出ない。PHEVが無ければ買う事も出来たが、オーバースペック過ぎて勿体無い。


 また、釣り出し作業としてラジコンを使えればと思ったのだが、生身の相手にしか興味が無いらしくそれも出来ない。


「自分の素材がある程度近づくと感知して動き出すわ。遠距離からなら一方的に破壊出来るけど弓だと殆ど意味無いわね。攻城兵器とかでまとめて破壊するくらいかしら」


 ミリシアの話を聞いて、厄介な相手だという印象をさらに深めた。

 移動速度自体はそこまで速くない。鬼でも人間並みなので、距離を置けば追い付かれる事もない。延々往復しながら釣り出し作業をしなければならないのは苦行だが、せっかくここまで来たのだ。成果を出したい。


「じゃあ、明日は頑張ろう?」


 時間を見てみると、夕方にはまだ間があるが事を起こすには少し遅い。結局土木作業で一日潰れたのかと、肩を落として苦笑を浮かべてみた。


「準備に時間をかけられるのは幸運な事よ? 何の手筈も整わないまま相手をしないといけない事なんてざらだもの」


 ミリシアに慰められて、宿に戻る。昨日とは打って変わって今日の肉体労働の実績から明日の成功を信じられる明るい雰囲気に終始したのは助かった。さて、明日こそは決戦に出来ればな。そう考えながら、既に筋肉痛を起こし始めている腕を揉みながら瞳を閉じた。

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