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第36話 問題は数

 宿に戻ったミリシアと無言のまま食事を済まし、部屋に戻る。一人部屋二間を最初希望したのだが客数が多くて高いのとミリシアが二人部屋で良いと言ってくれたので、ツインの部屋。

 ベッドの上に向かい合うように座り、開口一番謝罪。


「申し訳ないです……」


 頭を下げると、ふぅという溜息の後、そっと柔らかな感触が頭を撫で、頬に移る。


「ううん。任せきっていた私が悪いの。勝算はあったのかしら……」


 ミリシアの言葉に、あーうーと口を開け閉めしてははと力なく笑う。正直なところ遺跡の発掘もしくは探索に危険があるとしたら崩落や害虫などだと考えていた。大きな生き物がいるなんて考えず、そもそも死体が動くなんて想像もしていなかった。


「学習不足でした。視界さえ確保出来れば問題ないと考えていました」


 自身の常識に拘泥していた事を説明し、再度謝意を表す。ふむふむと聞いていたミリシアが納得いったようにこくりと頷いた。


「そうよね。渡り人の常識もあるわね……。前の時のように何か策があるのかと思って頼り切っていたのは駄目ね」


 ふぅと天井を見つめながら溜息を吐いたミリシアがやっと表情を崩し、苦笑を浮かべながら顔を見合わせる。


「遺跡には動く死体が付き物だわ。魔石を回収する意味って分かるかしら?」


 行政庁舎における質問では価値があるものであり、貨幣の原材料になっていると聞いていたが、意味までは知らない。ふるふると首を振ると、さもありなんと大きな頷きが一つ。


「そうね。魔力が、魔石が無い世界だったものね……。えーっと……」


 ミリシアの話によると、魔石をそのまま死体と一緒にしていると魔石が変質するそうだ。大概頭蓋の方に移動し、体はアンデッド化する。年月が経てばその腐肉が削げ落ちて、スケルトン化してしまう。研究者の話では、何らかの力で頭蓋骨の中空にぷかぷか浮いているらしい。


「アンデッドは性質が悪いわ。魔石を抜かない限り動きを止めない。でも、変質した魔石は高価だから攻略出来れば大きな利益があるわ」


 アンデッド対策としては、四肢をもいで頭蓋の中の魔石を取り出すのが一般的らしい。燃やしたりしてまとめて取り出すのが方法としてよく用いられている。腐肉が重りになって動きが鈍いので、そういう攻略法がある。


「スケルトンになると厄介ね……。より変質して力を持った魔石。価値は高いけど、あんまり割に合わないの」


 逆にスケルトン対策は結構難しい。幾ら四肢をもごうとも、時間があればくっついて再度動き出すそうだ。また、周囲の骨を素材にしても再生する。魔石と魔力によって制御された動きは俊敏で、頭蓋骨の元々の持ち主の動きをトレースするとの事だ。

 対策として、頭蓋骨を大きく破壊すると場を保てなくなった魔石が骨を制御出来なくなるので、頭蓋骨を潰す事。


「骨を割る……。強度としてはどうなのでしょうか?」


「元々の生き物の強度に寄るわ。ただ時間が経てば風化する。いくら再生するっていっても材料が無ければ無理だもの」


 小鬼の骨程度であれば、ただの鉄の剣でも断てる。問題は会った事のない鬼に関してだ。

 鬼は身長が百五十から百八十センチほど。姿かたちは小鬼を大きくした感じらしいのだが、身体能力が体の大きさに比例して上がっているのと、頭に大きな角があるのが特徴らしい。骨の固さは人間と変わらない程度。それなりの衝撃で砕ける。


「ふむふむ……。問題は数ですか……」


 暗闇から這いよる風化した骨の軍勢。生き物の気配を感じると、再生の素材収集のため接近してくる。一対一ならまず間違いなく負けないが、数は暴力だ。


 取りあえず対策をミリシアと協議し、納得の表情を浮かべてもらった頃には部屋の中は薄暗くなっていた。トントンとノックの後、宿の人がお湯の入った桶を持ってきてくれたので、背中合わせで体を清める。何となくの照れくささを感じつつ別々のベッドに潜り込む。お仕事中なので、公私混同はしない。


 寝息を立てるミリシアを宵闇に感じながら、本日の醜態を反芻する。この世界に来てから曲がりなりにも成功してきた実績にあぐらをかいてしまったのかなと。スマートに処理する事に慣れてしまっていた。クレバーさが足りない。

 はぁと大きな溜息を一つ。木窓から漏れ入ってくる星明りとそれに照らされて舞う埃を眺め、目を瞑る。明日は少しでも良いところを見せたいな。そう考えながら、意識を手放した。

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