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第35話 詰まるの禁止!!

「はっ!! 早く下がって!! ちょ、詰まるの禁止!!」


 LEDのマグライト、それに左手はポリカーボネートのライオットシールド。取りあえず走りにくい荷物を持ってまごまごしていたら、背後からミリシアにてしてしと叩かれる。てしてし? いや、もうちょっと力強い。

 振り返ると、光の果ての端の方にちらりと動くものありけり。徐々に姿を見せるのは、茶色染みた骨。それがかつりかつりと足音を立てて接近してくる。


「先に逃げて下さい!!」


「灯りの方が優先!! だから、走ってー!! はーやーくー!!」


 ぐいぐいと押されながら必死で走る。現場に立つ事はあれど、ただのビジネスパーソン。はぁはぁと荒い息を立てながら、這う這うの体で眼前の灯りに向かって進む。地獄に垂れる蜘蛛の糸を上るカンダタのように縄梯子を駆け上がり、尻を蹴られる前にごろごろと入り口から這い出られたのは僥倖だろう。


「空、高いなぁ」


 秋空は澄み切った青さを見せる。視線を横に向けると、肩を揺らしながらorzな態勢で呼吸を続けるミリシア。うん、失敗した。用意が足りなかった。





 テテロンに近郊に着いた私とミリシアは車に偽装を施し、村に一軒だけあった宿を確保、酒場併設の定食屋で干し魚に舌鼓を打った。


「民家でお世話になる可能性も考えましたが、宿があって助かりました」


「テテロンは交易で潤っている村よ。商家の行き来も多いから宿も混んでいるわね」


 器用に木製のフォークを操り、皮を剥がして骨を避けるミリシアが告げる。


「思ったよりも人が多くてびっくりしました。見つかる可能性は低そうですが、少し気になります」


 私は村近くの林にこんもりと葉っぱの小山になった車が若干気になった。


「日常的に踏み込む林じゃないから大丈夫よ。で、実際の場所だけど……」


 車を降り、日常に戻ってからは調子が出てきたのかミリシアがリーダーシップを発揮し始める。この辺り細かい現場の勘所(かんどころ)が分からない身として凄く助かる。さくっと食事を済ませて、村外れの森に向かう。勿論村長のところに挨拶をして侵入の許可を得てからだ。根回しは重要だ。


「はぁー。ここなのね?」


 てくてくとハイキング感覚で森を三十分ほど歩くと小高い丘の断崖絶壁に到着する。その下部は絶壁から崩れ落ちたであろう土砂で埋まり、木々が思うように繁茂していた。

 ぽかんと口を開けて見上げているミリシアの手を取り、元は土砂だった場所を踏破する。絶壁の間際に辿り着くと、その足元にぽっかりと六十センチほどの穴が開いているのが見える。


「これだと思います」


 リュックサックからマグライトを取り出し穴の中を照らすと、果て無き深さに続いているのが分かる。


「子供とかが落ちると大変ね」


 そう告げながら、ミリシアが預けていた折り畳み式シャベルを組み立て始める。


「この辺りには魔物が出るそうで。軍の方で進入禁止にしているそうです」


「交易で潤ってなければそんな注意聞くはずもないわ。たまたま運が良かったのね」


 そんな事を話しながら、私もシャベルを組み立て穴を掘り出す。二人して侵入経路を広げる事となった。



 三時間程穴を掘る、というより穴に土や石を放り込んでいると一メートル程に広がった。縄梯子を近くの木に結び付けて、穴に放り投げる。坑内の空気を確認すると、流れを感じるので、どこかに空気穴があるのだろうと判断し、穴へと侵入する。

 降りた場所で装備を確認。ミリシアはいつもの軽装。私はマグライトとポリカーボネートのライオットシールド。


「では、進みます」


 ミリシアに声をかけてゆっくりと前進。マグライトの強烈な明かりに照らされた坑内は五メートル程の高さで掘削されている。断崖絶壁を構築している岸壁を掘り進んだのか、土染みた壁というより石の壁といった感じだった。崩落の危険性は低そうだなと、静かに歩を進める。

 危険の無い宝探し、そんな気概で挑んだ我々だったが、十分ほど進むと不審な音に気付く。足元に注視していた私がくいっとマグライトを上げた先には、無数の骨格標本がこんにちは。ひぃっと悲鳴を上げる暇もなく、ミリシアと一緒に入り口まで駆け戻る羽目になったのは言うまでもない。


 教訓。油断大敵。

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