第32話 我らが友に
「最後に。迷い人でありながら身を削り、類いまれなる秘宝を提供し多大な貢献をしてくれた。我らが友に!!」
ジェクシャードの声に合わせ、部屋の左右に立つ将兵が音を上げ姿勢を正す。私はその間を無言で歩み、一段高い上座の手前で跪く。
「閣下。過分なお言葉に感謝致します」
頭を下げたまま私が告げると、静かにジェクシャードが歩みそっと肩に触れる。
「面を上げて欲しい。此度、戻らぬ者は無し。最高の結果をもたらしたのはシア、お主の功績。見よ、皆がそれを分かっておる」
その言葉に合わせて振り向くと、万雷の拍手と共に将兵達の歓喜の声が木霊していた。
全ての処理が終わり森を発った私達は馬車に乗り、一路ジェクシェズに向かう。時間は深夜を周り、辺りは漆黒の闇に染められている。射干玉を切り裂くように騎乗した兵が持つ松明が煌々と道を照らす中、ゆっくりと馬車は走る。
車内を見渡すと古参の兵はさっさと眠りに就いて体力の回復に努めている。少数の新兵が今朝の進軍の興奮が残っているのか、会話に興じていた。
まだ眠る時間でもなしとふわりと意識を拡散させ、今後の展開を予測する。
個人的には自分自身に大きな功績があるとは考えていない。僅かな資材と戦術を提供しただけだ。しかし、アディの反応を見る限り多大な恩を感じられている。この認識のずれは問題になるだろうと。
ジェクシャードとの会見における当初目的は顔見世と相手の認識を把握する事。これに関しては十全とは言えなくても達成出来た。
その後ジェクシャードから提案された依頼の目的は陣営への取り込みと手柄を上げての地位の確保だろうと予測している。だが、ちょっとやり過ぎた感がある。問題は二点。こちらの労力が小さいにも関わらず多大な成果を上げてしまった事。その多大な成果がもたらす地位が周囲の妬みを買わないかという事だ。ジェクシャードの人となりは何となく分かった。最低限信用は出来る。ただ、その配下まで信用出来るかは分からない。そんな状況で初見の人間が多分な報酬を受けるのはまずかろう。
腕を組みながらぽやぽやと考えていると周囲は車輪の回る音に満たされていた。周囲の兵も疲労に勝てなかったのか眠りこけている。取りあえず疲れている時にあまり考えても無駄かと私も目を閉じる。ふわと欠伸を一つ。星明りを感じながら意識を手放した。
執事に連れられ薄い朝靄を通して柔らかな光が差し込むジェクシャードの執務室に歩み入る。
馬車での旅程は問題なく進み、早朝前には町に到着した。先触れや軍としての報告が先行してジェクシャードにもたらされ、その間私は宿舎にて仮眠を貪っていた。一通りの報告が完了したという事で執事に呼び出されたところだ。
「おぉ。無事で何より」
こちらの挨拶の前に満面の笑みを浮かべたジェクシャードが両手を広げながら、歓迎の意を示す。
私は微笑みを浮かべ一礼。
「祝着至極にございます」
一言を述べ、両手を広げ抱擁を受ける。一頻りの接触の後、ソファーへと向かった。
「報告は受けた。大した成果だ。アディは恥じ入っていたが、数の差があれどほぼ無傷とは」
ジェクシャードの言葉に、頷きで同意を示す。
「アディさんの実力、訓練の賜物です。私の出る幕はありませんでした」
一息に告げると、従者の用意した茶を含む。
「自分の貢献を過少に評価しているのではないか? アディからは預かった機材の効果が大きかったとの報告を受けておる」
呆れたように告げるジェクシャードにふるふると否定を返す。
「いえ。あくまで道具は道具。それなりに意味はありましょうが、人がいてこその成果。私がやった事は商家の延長に過ぎません」
「ふむぅ……」
私の言葉に思案気になったジェクシャードに畳みかける。
「して、今回の貢献に関しての対価についてですが……」
渋るジェクシャードを説得し続け、何とか納得させたのは昼の時間も見えてくる頃だった。
「此度の貢献を評価し、アディを軍司令に昇格す」
論功行賞の場に立ち、ほぅっと息を吐く。サプライズ的に皆に祝福されたがそれ自体気が重い。無責任な立場の人間があまり表に出るのは良くないと考える。
「そして、此度協力してくれたシアに関しては報奨金五百万。それと共に、ジェクシャード領の通行手形を授ける。勿論、商業活動の際は関税を放棄す」
ジェクシャードの言葉に戸惑いが混じったざわめき、しかしまばらに起こった拍手に合わせて、徐々に潮騒のように広がっていった。
ささやかとは言い難い祝勝会の中、是非にと誘われ慣れない作法を駆使しながら壁の花となる。見知った兵やアディとの会話を楽しみながらそっと周りを眺める。
さざめきのような人々の視線を躱しながらカップを傾けているとジェクシャードが近づいてくる。
「しかし、あんなもので良かったのか?」
にこやかな中、小声の疑問に朗らかな頷きを返す。
「この時点で地位を頂いても色々問題がありましょうから」
「しかし、実勢に影響せぬ地位を用意し盾となる事も出来るが……」
ジェクシャードの眉根に寄った不安に首を振って返す。
「傭兵として活動するにせよ、領内を自由に動ける事は大きな褒賞です。まず生計を立てるのに閣下の本拠を主とするのは言わずと知れた事です。地位として縛られずとも、分る人に分かれば良いです」
「そうか……」
その後は当たり障りのない会話を交わし、今回の召喚劇は幕を下ろした。
「しかし、地位は勿体ねえな。箔は付くだろ?」
薬缶から細い筋を描きながら湯がドリッパーに円を描くように注がれる。辺りには馥郁たる豆の香ばしい香りが漂う。
「いりませんよ。どうせ誰かの不興を買って足を引っ張られるだけです」
温めたカップにゆっくりとコーヒーを注ぎベルに渡す。私も自分のカップを片手に椅子にかけた。
「閣下は良いです。しかし、組織なんて何が出てくるか分かりません。気付けば二進も三進もいかなくなっていたなんて笑えないですから」
「そんなもんか?」
「誰にも文句の言えない成果なら良いですが、たかが物を渡しただけですからね。自由を保障してもらえればそれだけで十分です」
私が微笑むとベルが苦笑を浮かべる。
「欲が無いな」
「十分ですよ。少し面白そうな事もありますしね」
そう告げて、テーブルの上に置いていた紙をひらりと掴む。
「少し、遠出するかと思います」
「おう、後は任せとけ」
ベルの言葉に微笑みを返し、そっとカップを傾ける。久々の香りとカフェインの刺激に胸が高鳴った。
支出
ジーンズ - 6,800
情報料 -150,000
クロスボウ一式 -11,000
クロスボウ一式 -11,000
クロスボウ一式 -11,000
クロスボウ一式 -11,000
クロスボウ一式 -11,000
クロスボウ一式 -11,000
クロスボウ一式 -11,000
クロスボウ一式 -11,000
クロスボウ一式 -11,000
クロスボウ一式 -11,000
クロスボウ一式 -11,000
クロスボウ一式 -11,000
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クロスボウ一式 -11,000
クロスボウ一式 -11,000
クロスボウ一式 -11,000
クロスボウ一式 -11,000
クロスボウ一式 -11,000
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トランシーバ -7,200
トランシーバ -7,200
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トランシーバ -7,200
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単三電池 -1,860
収入
薬草販売利益 +175,800
褒賞 +5,000,000