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第30話 各隊、強襲

ただ幸せな異世界家族生活 ~転生して今度こそ幸せに暮らします~の一巻が発売しました。

よろしくお願いいたします。

 話を聞いたところ、こちらの問題は二つ。

 敵の見張りや斥候を的確に潰せず、相手の集合を許した事。そして、周辺を囲んだ各部隊が上手く連携出来ずに各個撃破を許した事。

 この問題を最小限の助力で成功に導くために用意したのは、クロスボウとトランシーバ。そして斥候に対する訓練と各員の運動能力の強化だった。


 百五十の隊員を十人十二の部隊に分ける。そこに二名ずつ計二十四名の斥候を付ける。二十四名の斥候にはトランシーバとクロスボウを持たせて敵の見張りを確実に個別撃破させ、部隊を安全にかつ各隊を連携して誘導させる。

 二十日の訓練の中、斥候に関する教授を行い、その他の隊員には闇夜の中で限界まで持久力を伸ばすための訓練を行った。


 結果、平地で二キロ範疇の円周を視界に頼らず有機的に連携出来る練度までには達した。森の中でのトランシーバの有効半径は障害物が多いため五百メートル程。届く範囲で流動的に情報を受け取りあい、最終的に全員が連携出来る域に達したのが二十日の時点だった。

 クロスボウは過去の騒ぎで出していたものに追加を、トランシーバも建築現場の屋外作業用のものが用意出来たので出費そのものは大きくない。





 作戦開始後、星明りだけを頼りに森の中を進む。斥候達は躍動するように前進し、見張りを見つけては二人が連携しながらクロスボウで射撃。確実に目を潰し、部隊を誘導する。

 私は秋の最中でも踏みつぶしては立ち上る深い草の香りに酔うように皆と一緒に前進する。現在いるのは一番隊。アディが指揮し、予備の六名が増強された部隊。最悪敵が前進する場合は、一番隊が中核をなし時間を稼ぎつつ各隊の合流を促す予定だ。


 ざくざくした踏みごたえの中に、ぬるりとした粘度の高さを感じる瞬間が混じる。クロスボウで射られた死体の横を無造作に踏み分け、静かな集団は森の奥地に整然と進む。


 小休止が斥候より告げられるたびに、弛緩した時間が流れる。暗闇は容易に体力を精神から攻め立てて奪う。座り込んで足首を回すと予想以上に強張っているのが分かる。

 社にいる時は現場に立つ事なんて無かったし、立とうとも思わなかった。そして立つ事を禁じられてもいた。何の心境の変化だと苦笑を浮かべて周りを見渡す。暗闇の中でも慣れた瞳は、荒い息を吐く皆の表情がどことなく認識出来る。二十日同じ鍋で同じものを食べて訓練した仲間。使命に燃え、死地に赴く猛者。ほんの少しの憧憬と作戦立案をした責任が胸を去来し、ヘルメットを止めるベルトを締める手に力が入る。


「平地においても脅威と感じましたが、通信とやらは脅威ですな」


 後ろに座ったアディが囁くように告げる。


「持ち込んだ数が少ないのと、所詮は使い捨てです。力を失えばただの箱です」


 取りあえずクロスボウに関しては今後類似のものを開発される可能性はある。だが、弩自体が地球の過去から存在した事を考えればしょうがない。この世界における正統進化として甘んじる。ただ、トランシーバに関してはあまりにも文明とかけ離れているため保険をかけさせてもらった。電池式のものを供給し、電池そのものは有限とした。今回の作戦に使うもので枯渇する旨を告げた際のジェクシャードの沈痛な面持ちには冷や冷やした。有効な装備を使い捨てさせた事に関しては褒賞で報いるという話なので、それはそれで楽しみにしている。


「そのような力を我らの命の為に振るって頂き、感謝の言葉もありません」


 アディの言葉に私は向き直り、曖昧な笑顔を見せる。ジェクシャード含めてこの論調なのはありがたいが、真実は語れないなと胸のもやもやを押し殺す。





 適度に休憩を挟みながら二時間ほどをかけて森の中央部に辿り着く。全員の通信が通った段階で戦況を報告してもらったが、三十人強の見張りを殲滅している。

 目標となる天幕の集落の周囲は赤々と輝く松明に囲まれている。向こうも見張りとの連絡が取れない事に気づき、何らかの対策を取ろうとしているのだろう。


 ガピっというノイズの後にトランシーバから連絡が流れる。


「敵に動きがあります。起き出した全員が固まって動き出す模様です」


 この報告に、遠い焚火に照らされたアディと頷きあう。


「各隊、強襲。打って出るぞ!!」


 アディの指示に伴い連絡しあった各隊は、強く引かれた弓を彷彿とさせる勢いで包囲を縮め、走り出す。歩兵という近接の暴力装置のタガが外れた。これからは、殲滅の時間だ。

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