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第29話 作戦名吹き抜ける緑の風を開始します

 荒い息が微かに聞こえる闇の中。深い森の中、踏みしめるごとに緑の匂いが辺りに立ち込める。満天の星空から枝葉越しに降り注ぐ輝きだけが足元を教えてくれる。

 肩で息をしていると、前方を歩く背中に腕が回りハンドサインが示される。小休止。それを見た瞬間膝から崩れるように四つん這いになって息を吐く。


「お疲れ様です。もう少しで目的地です」


 全身を泥で汚し、顔は煤で真っ黒に染めたアディがそっと耳元に口を寄せて囁いてくる。


「か……過酷……です……ね」


 中東の乾いた灼熱は体験した。東欧の極寒も味わった。勿論、ジャングルの中を進んで物を売りに行った事もある。しかし闇の中、灯りもなく長時間、それも度々襲撃を受ける森林地帯、限界環境での行軍経験は無い。独特の精神的疲労と体中に溜まった乳酸に苛まれ、体が横たわりそうになる。


「言い出した責任と仰って同行を決められたのです。しようがないかと」


 アディの言葉は深い秋の森、音もない闇の中に微かに響き周りからは温かい笑い声が微かに聞こえてくる。


「自分の……言い出した……事です。頑張ります」


 私は上がりそうな顎をくいっと引き、腕に力を入れて立ち上がった。





「訓練ですね」


 町まで戻った私は作戦に必要な物を用意し、再度ジェクシェズに戻った。町外れの訓練場にはアディをはじめとした百五十名が集められ、こちらを固唾を飲んで見守っている。

 方針をアディに説明した時もそうだが、組織という物は外部の人間からの指図を嫌がるものだと考えている。しかし、ジェクシャードの委任の言だけで皆があっさりと従うさまには疑問を感じていた。

 その辺りをアディにも聞いてみたが、傭兵と一緒に戦う時もそうだが生き死にに関わる事に妥協をしない、必要な事には従うという方針らしい。これがジェクシャードの薫陶なのか国の方針なのだか分からないが非常に柔軟でありがたくは感じた。


 取りあえず兵科の確認を行ったが、弓や騎馬に適性のある人間はいなかった。勿論魔法を使える人間も。魔法に関しては各所に詰めていて即応部隊にはいないらしい。魔法のある世界に来たのに、殆ど魔法を見た事が無いなと持久走のタイムを計りながら考えた。


 ばたばたと力尽きて皆が脱落していく中、最終的にアディが残った段階で終了を告げる。


「はぁ……はぁ……このような訓練の……指揮の経験が……あるのですか?」


 息も絶え絶えなアディが、それでも綺麗に立ち上がり問うてくる。


「はい。商品を売るという事は運用を売るという事が多いです」


 実際に物をそのまま売るというケースは継続販売や紹介されたお客様が殆どだ。ご新規のお客様には売った物をどうやって使うかの実演及びその取り回しや運用指導がセットとなる。ただあくまで販売が主目的なので、現場で私達が実際に商品を使って何かをする事は無い。それは法律で禁止されている事が多いし、そもそも社則で禁じられていた。


「では、実際の武器及び部品を配布致します」


 そんな感じで持ち込んだアイテムを各員に渡し、教導を始めた。






 森の入り口に立ったのは訓練を始めて二十日ほどが過ぎた夜半。

 その間に関しては即応部隊の残余人員を周辺で行きかう商隊に護衛として付けていた。勿論全てを防ごうとすると飽和するので、ある程度の数でまとまっての行動を依頼したりと随分商家の面々には迷惑をかけた。勿論行政側の支援に関する労力もある。ただジェクシャード肝いりの作戦だった事、実際に襲われたが最低限撃退出来た実績などもあって何とか大きな損害を出す事なく実施日を迎えられた。


「では、作戦名吹き抜ける緑の風を開始します」


 アディ達と共に準備を完了した私が開始を告げた瞬間、ザーというノイズと共に了解の声が鳴り響いた。

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