第28話 現状の問題点は何でしょうか
暫く待っていると訓練を終えた兵達が兵舎に戻ってくる。その中でも五十ほどの立派な鎧飾りを着けた男性がこちらに近づいてくる。
「紹介する、指揮官のアディだ」
ジェクシャードの言葉に、アディが一礼する。
「初めまして。シアと申します」
返礼をすると執事がアディに近づき事情を説明してくれる。最初は胡乱気な表情を浮かべていたが、納得したような表情でこくりと頷く。
「ミリシア嬢は良く知っております。彼女に認められたのならシア様も有能なのでしょう」
「役もありませんので呼び捨てで結構です。彼女をご存知ですか?」
「何度か。遠征に同行しました」
大規模な魔物の襲撃や、国境上のいざこざなどで傭兵が動員される事はある。その際に傭兵を率いて参加するのがミリシアらしい。その辺りもあって、アディとは連携していたということだ。
「私自身、大規模な戦闘行為に従事した事がありません。その上でご協力できる事があればと考えます」
私の言葉にアディが頷くと、地図の上にことりことりと駒が置かれていく。
「現在調査されている範囲ですが、森の中心部を百名弱の集団が不法に占拠している状況です。偵察は行いました。天幕の数までは把握出来ましたが、詳細な内容までは不明です」
「防衛施設……。柵などはありますか?」
「まだそこまでの設備はありません。ただ魔物への対応のため、常時見張りは立てていると報告を受けています」
「こちらが有する戦力は?」
「即応部隊の予備を除き、百五十です。全員歩兵です」
その言葉に首を傾げ執事の方を向くと、軍の内情を教えてくれる。基本的には国境に張り付いている軍が主力であり、こちらに殆どの戦力が向けられている。騎兵及び弓兵の兵科もここに集まっている。他に関しては、各町村の警察機構として歩兵が駐留しており、各拠点を巡る騎兵が存在する事。領都には即応部隊として二百が駐留。その内五十を予備兵力として領都に残し各門の守護に充て、残余の百五十が実際に扱える兵力となるとの事だ。
「盗賊相手に兵を集めるのは無駄……ですか」
「最大で六千までは集合可能です。また仮に必要数を用意するにせよその分治安が悪化すると考えます。下手をすると、各所で同じような事態が起こりかねません」
アディの言葉に渋い顔を浮かべてしまう。職業軍人を百五十人集めて、百人の相手をする。数の上では優位だが、慣れない森の中で行動するのは不測の事態が起こりかねない。かといって数を用意すると本末転倒になる、と。
「現状の問題点は何でしょうか?」
「我々の目的は盗賊化した難民の殲滅です。ここで経験を得た人間を逃がす訳にはいきません。百五十で包囲を目的として一度軽く当てましたが……」
きりとアディが噛み締める。
「こちらの動きを察知した難民がまとまって包囲を突破。そのまま逃走の上、再度集合したのが現状です」
拠点と思しき場所は綺麗にもぬけの殻。かといって森全体を見張り続ける訳にもいかず、手をこまねいている間に再合流を許したと。
戦闘的な意味での練度はさておき、森での行動という意味では盗賊側の方が高い。数が揃えられれば問題は無いが、根本の問題があって無理。現状の戦力での殲滅が望ましい、か。
「暫し訓練の為の猶予を頂きたく思います。またこのような状況で使用するための商材を持っておりますので、それを戦術に組み込みたく考えます」
ジェクシャードに向かい、今後の方針の詳細を説明すると、執事、アディ含めて了解が得られた。後は訓練と物の準備が必要。兵舎から解放され、ほぉと息を吐き大きく息を吸い込む。秋だった空気はやや冷たさを増し、冬の訪れを近く感じさせる。
冬が訪れれば、盗賊の跳梁は今より激しくなるだろう。時間との戦いだが、やるべき事をやるかと、両頬をぱんと張った。




