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第14話 また、ね

「かんぱーい!!」


 マグを掲げて、皆で唱和する。

 私とベディはワインを、ディルは果実酒、ミリシアとバードンは蒸留酒をくいっと呷る。

 嫌な雰囲気を払拭するように、皆、雄弁だ。





「災難……でしたね」


 村からの追手を鎮圧した後、私達は急いで町に戻った。行政庁舎に駆け込み、今回の顛末を余す事無く報告した。

 行政の動きは素早く、法務関連部署と連携した上で、早馬が現場に急行。私達の証言通りの惨状を確認した上で軍が村の制圧に乗り出した。


 国の法律においても領法においても、強盗行為は歴とした犯罪行為である。

 今回は村の責任者である村長、並びに他の村人にもそれを抑える義務が生じる。

 抑えきれなかったのであれば管理不行き届きだし、黙認したなら幇助(ほうじょ)だ。


 結局村人の総意で、事を成した事が判明し、余さず捕縛されたと報告が舞い込んだのは夜も更けてからだった。


 また、ここまでスムーズに事が進んだのは、ミリシアの評判が大きな要因になっている。

 品行方正、面倒見も良く、依頼に対しても誠実。虚偽を嫌い、公明正大な姿は、職員にも知れ渡っている。

 お姉さん方は、話を受けた途端猛然と法務及び軍に乗り込んでいった。あの勇ましい姿は中々忘れられない。

 ちなみに、この国において警察権は軍が掌握している。


「しかし、ご無事で何よりでした」


 職員のお姉さんが、ニコニコと出してくれたお茶を啜りながら、私達は取り調べ用の大部屋で疲れ切った姿を晒している。

 渋みの強い、やや酸味のあるお茶が、疲れた頭に染み渡る。


 取り調べに関しては、ミリシアが代表して報告してくれたのだが、詳細の部分や証言を明確にするために私達も別部屋で取り調べられた。


 特に私は途中から指揮権を奪って動き回っていたような状況なので、延々と説明する羽目になった。

 それでも、日本のあの無意味な会議に比べれば何億倍もスムーズなので、特に気にせず最後までやり遂げた。


「少しの間、依頼は懲り懲りよ……」


 流石に少し弱った感じで、ミリシアが苦笑を浮かべると、他の三人も一斉に頷く。

 その様子を見て、職員がはぁと落胆の溜息をそっと吐く。エースが戦線を離脱するのは困りものなのだろう。


「まだ、叫び声が耳から抜けない」


 若いベディが弱音を吐くと、ミリシアとディルが抱きしめて慰める。


 PTSDになるのも困るなと、私は提案する。


「折角の収入です。大変でしたし、飲んで語って、忘れませんか?」


 その言葉に賛意を露にした皆。初めてきちんと話をした酒場に足を延ばしたのは、もう暫く経ってからだった。





「本当によくやってくれたわ。危ないところだった。ありがとう」


 飲み始めて、早々にベディを酔わせてとにかく語らせた。

 自分の思い、感じた事、感情の機微。吐かせて、吐かせて、吐かせ切った辺りで疲労からか、眠りに落ちた。

 修羅場を潜った時は、とにかく吐き出す事。溜め込まない事。それが早期に実施されるなら、回復も早いだろう。


 バードンも自分の過去を含めて、ぽつりぽつりと語り、終始冷静だったディルと一緒にベディを抱えて宿屋に向かった。


 私はミリシアと、差し向かいで酒杯を呷る。

 ワインと言っても、酒精が低く、軽い酩酊を感じる程度だ。蒸留酒の方はちょっと臭いが強くて手が出せなかった。


「いえ。よく指揮をされていたと思います」


 私が世辞を抜きに伝えると、ふふと微笑を浮かべて、マグを緩やかに振る。


「あなたを誘って良かった……」


 蠟燭の明かりにきらきらと反射した瞳が、じっと私を見つめる。


「それは、生きて戻れたからですか?」


 少しおどけて言うと、小さな声で馬鹿と告げられる。


 再び軽く今回の出来事をおさらいし、考え方の相違を議論した後に空虚な時間がぽかりと生まれる。


「私も……」


 ミリシアがほわりと熱気が籠った言葉を紡ぐ。


「少し、弱っているのよ?」


 その言葉を最後に、テーブルを立つ。私とミリシアは夜の町へ、そっと寄り添いながら消えた。





「役得じゃねえか」


 ふわと欠伸をしながらの朝。テーブルに並んだ食事の前でベルに今回の顛末を語る。


「まぁ、民間人を一方的に殺せなんて指揮をした私の不徳の致すところです」


 その言葉に、ふんっとベルが鼻息を噴く。


「悪さをする奴ぁ報いを受けるさ」


 ベルの単純な義憤に心が温まり、微笑が生まれる。


「正義も悪も関係ありません」


 私は、パンをスープに浸しながら、言葉を続ける。


「要は考えられるか。想像出来るかが重要です。正義を成しながら、同時に悪を成す事なんて幾らでもあります」


「ふーん」


「どれだけ、自分の利益になるのか。他人の不利益を誘発しないのか。その辺りが人生の落としどころじゃないかと思います」


「達観してるな」


 呆れたように、ベルが呟く。


「性分ですので」


 そう告げて、はむりと柔らかくなったパンを口に含んだ。





 今回の依頼に関しては、授受までにしばらく時間がかかった。依頼主が犯罪者として裁かれているので、依頼金を徴収出来ないのが分かっている。

 その為、行政も立て替えるかの判断が必要になったらしい。


 結局、有力な傭兵であるミリシアの心証を良くして繋ぎ止めを計りたいという職員のお姉さまの筋書きを飲んで行政が立て替えて、村人達に債務を押し付ける形に収まった。


「本当に良いのかしら?」


 ミリシアの興味一色だった瞳も今はほんの少しの優しさが混じる。


「えぇ。今後も良いお付き合いをしたく思いますので等分で結構です」


 元々の依頼料が頭割りで八万ずつ。それに小鬼を討伐した魔石と持って帰った金と物を売った金額が八十万強になった。

 ちなみに、幾つかの財布の合計は四十万弱程度。そんなはした金で命をかける人間の気が知れない。


 ミリシア達は、討伐に関して権利を主張せず、私が総取りで良いと告げてきたが、今後も良い関係を築いていきたいという私の意見が通り、頭割りで十六万となった。端数はミリシア達の共有資産の足しにしてもらった。


 報酬の合計で二十四万レーネ。人を殺した対価がこれかと少し苦笑が浮かぶ。


「じゃあ、また誘うわ」


 ミリシアが席を立ち、バードン達が口々に暫しの別れを告げて去っていく。


 そっと人差し指を自らの唇に押し付けたミリシアが、そっと人差し指を私の唇に押し付ける。


「また、ね」


 ミリシアは妖艶に微笑むと、酒場の入口へと去っていった。





残高        504,400レーネ

 お茶代     -  1,000

 クロスボウ一式 - 11,000

 的       - 2,500

 調味料一式   - 3,800

 保守部材    - 7,200

 ライダーレザー - 95,000

 防刃セット   - 24,000

 フルフェイスヘ - 28,000

 寝袋      - 7,800

 ブルーシート  - 200

 粘土      - 680

 ガストーチ   - 2,600

 ガス缶     - 120

 ガス缶     - 120

 ガス缶     - 120

 トウガラシスプ - 4,200

 慰労会     - 13,700

 宿屋      - 12,000

 コンドーム   - 1,200

収入       + 240,000

合計        529,160


合計        300

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