三話 「癒やし系委員」
時は変わり既に放課後。賑やかな教室にポツンと無表情で一人、机に肘をついている。それこそ彼草薙友葉だ。友達が少ないわけではない。否、多すぎて引くほどである。人見知りからぼっちな方までそれはそれは幅広い。友葉の通う学校はマンモス校と言われるほどの人数の多い学校。在校生が全ての学年合わせて約七百人いる。そしてそのうち五百人は友葉と関わりがある生徒だ。
実際それは無理だろうと思われる話だが友葉は違う。部活や委員会、係。なるべく人と関わりを持つものをわざわざ選んでいるのだ。
彼が入っているサッカー部はこの学校の部活で一番部員が多い。そして委員会。彼は出来るだけ友達や知り合いを増やして立候補して見事当選。生徒会副会長もやっている。
そんな彼の目的は一つ。オタク仲間を増やすこと。それだけのためにここまでしたのだ。そのため友葉の友と呼べるものは皆友葉が重度のオタクということを理解している。引くほどのものなのも。だが皆友葉を気に入り仲良くしているのだ。友葉はオタ仲間が増えるということ以外にも最近メリットがあると気付いた。例えば、先生からの評判が良い。勉強が分からなければ誰にでも聞ける。忘れ物をしても絶対に困らない。など。
今更気付いたのかというものばかりだが、それほどに彼はオタク仲間増加にだけに専念していた。
「おーい友葉。そろそろ戻ってこーい!」
話は戻る。説明をまとめると彼は決して、友達がいないわけではない。
今の時間は彼の日課であるこの後のゲーム活動の脳内予定表作りの時間だ。それを邪魔すると信じられないくらい冷ややかな目とそんなに低い声出せたのかと驚くほどの地響きのような声で「黙れ。」と一喝される。それを恐れたクラスメイトは決してこの時間だけは話し掛けないのだ。
「ん。今日も完璧だ。寝ずにやってやる。」
そんななか終わったのを見計らい声を掛けてきた優しく気な黒髪の男子に友葉はガッツポーズを見せた。「無理するなよ。」と黒髪の彼は友葉の頭に手を置いた。懐っこい笑顔を浮かべる彼に友葉はフッ…と微笑して今度は彼の肩に手を置いた。
「お前も一緒に__「却下。」…。」
友葉の言葉を綺麗に遮った彼。二人の間に沈黙が生まれる。二人とも柔らかな笑顔でまるで時間が止まったように硬直する。そんな彼等をぼんやり見ていたクラスメイトたちは冷や汗をかいていた。
「何故だ親友!!」
「どうしてもだよ、親友。」
友葉の嘆きを彼は平然と返す。この黒髪の彼の名前は小泉雄真。このクラスの学級委員で影では『癒やし系委員長』といわれて言われている。そんな彼は中学からの友葉のたった一人の親友だった。だが一つ彼等には必ずすれ違うものがあった。
「こんなことっ…誰もがせめて『やってみるよ友葉!』ってイケボかカワボで言ってくれるのに! せめてはっきりとは断らないのに! なーのーにー!!」
友葉が言った通り増やしていった友人のなかに友葉の趣味をはっきり否定する者はいなった。そう誰一人。雄真以外は。
だが友葉もさほどそれを気にしてはいなかった。雄真と友葉は趣味以外では大いに分かり合える仲だったのだ。友葉は雄真に対してだけリラックスして自分をだせるし、雄真もそんな友葉を好いて素直に接していた。
「はいはい。それよりも今日って生徒会あったんじゃないのか?」
その言葉に友葉はバッと顔を上げる。そしてスクールバックからファイルを取り出して確認した。確認してすぐに顔を青くして頭を押さえる友葉に周りのクラスメイトが苦笑いをする。駆けだした友葉に雄真は「教室で待ってるからな~。」と声を掛けた。