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アイノリフレイン  作者: 矢田さき
エピローグ 貫奈亜以乃
31/31

エピローグ、もしくは幕間のようなもの

 長い夢を見ていた。

 重くとざしたまぶたを懸命に持ち上げようとするけれど、どうしてもひらかない。

 でもわかる。彼がそばにいることを。

 そして思い出す。眠りにつくまえ、あんなに会いたいと願ったことを。

 ムキになって目をあけようした。うーん、ひらかない。

 まだ夢の続きかしら。

 いいえ、違うでしょ。出口はすぐそこにあるのに、ちょっとした障害物があってふさがれているだけ。少し時間をおけば、じきに目は覚めるはず。

 もうしばらく、この水と空気の境目のような、夜と朝の狭間の東雲のような、子どもから大人に変わる中途半端な心待ちのような空間にいることにしよう。


 変わった夢を見ていた。まるで想像力に欠けるわたしが見る夢とは思えないような。

 思い出すとくすぐったくなる。

 わたし、別の女の子になってた。それで思ったことをばんばん声に出して言っちゃうの。

 友だちは、わたしのまわりにいないような、ちょっとこわい感じの子たちで、あんまり好きになれなかったな。

 そうそう、わたしに弟がいた。それが新鮮だった。弟はわたしのためにいろいろと気を遣ってくれて――。兄弟っていいなって思った。

 街で聡美とリッキーを見かけて追いかけたけど、見失っちゃった。

 自分の家にも行ったよ。でも鍵がかかっていて入れなかった。母さんに会いたかったんだけどなぁ。残念。

 でも、いちばん会いたかったのはやっぱり彼だ。

 彼なら絶対あそこにいると思った。団地のすぐ下の河川敷。あそこは彼にとって、たぶん特別な場所だもの。

 行ってみると――、やっぱりいた。

 後ろから声をかけたの。すぐ名まえを呼んでくれたけど、ふり返ってわたしの顔を見たら変な顔をしてた。そりゃそうだよね、わたしったら別の女の子になっていたんだから。

 それで彼ったら、わたしのことを話すの。自分にはもったいないヤツだーなんて。そんなこと言われたことないから、すごく嬉しくって。現実の彼もこれくらいわたしのこと思っていてくれたらいいのに、って思っちゃった。

 それにね、夢の中の彼はわたしと誕生日が同じだってこと知ってるんだよ。びっくりしちゃった。

 それから彼はわたしをどこかにつれていくんだ。たしかモノレールに乗った。並んで座ったよ。旅に出るみたいでわくわくするのに、横にいる彼からすごく緊張しているのが伝わってきて、わたしまでドキドキしてきたんだ。

 それでモノレールを降りて――、降りて、どうしたんだっけ。思い出せないなぁ。

 んんー。まぁいいや。ただの夢だもの。夢ってすぐに忘れちゃうものだよね。

 今の気分を話すとね、これまでの時間って、長いプロローグだった気がしてる。で、こうして眠っている今は幕間かな。

 だから目覚めると、そこから本編が始まるんだよ。

 わたしはまだまだこれからなんだ。

 それでね、そこにいつも彼がいたらいいなぁって思うんだ。

 彼にしたら、とんだメンドクサイ相手につかまっちゃったって思うかもしれないけど。


 さっきから気になっているんだけど、わたし、彼の名まえを思い出せないんだ。顔は浮かんでくるのに、名まえがどうしても出てこない。こんなことってある?

 もしかして、なかなか目が覚めないことと、なにか関係があるのかなぁ。

 こんなに会いたいと思っているのに、わたしったらどうしちゃったんだろう。えぇっと――。


 彼は――。


 彼は――。


 彼は――、オカピみたいな彼は――。


 古い三角定規の彼は――。


 わたしの大好きな彼は――。





「……は、早川くん……」



 〈了〉

 アイノリフレインはこれで完結です。

 拙作を最後まで読んでくださった方々、本当にありがとうございます。心より感謝します。

 次作は、少しあいだが空くかもしれませんが、またコツコツ投稿するつもりですので、よろしくお願いします。


 矢田さき

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