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チート生活始まるよー♪  作者: ネ申口鳥
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二話



 当たり障りのない談話を交わし、料理に舌鼓をうった会食が終わったのも三時間ほど前のこと。今はそれぞれが割り当てられた部屋にて思い思いに過ごしていた。


「ん~……やっぱりアレが心残りかな……」


 部屋が広過ぎて、豪華過ぎて落ち着かない――というわけでなく、気を利かせて同じ部屋にされた幼馴染み二人は、現在ダブルサイズのベッドの上に寝転んでいた。その柔らかさにはしゃぎ、ポンポン弾んでちょっとしたお約束なイベントが起き、両者頬を朱色にしたのも少し前の出来事。爆弾が贈られなくてよかったね。


「主語を言え主語を……。ったく、アレってーとアレか、お前が最近ハマってる携帯小説サイト……名前は……えーと、確か小説家になれ、だったか?」


「なんで命令形なの? 【小説家になろう】だよ」


「それそれ。で、恋愛モノがどーとか言ってたよな」


「ううん、ボク、今は違う系統読んでるよ」


 冒険物語系と後に続けると、やはり男の子、ピクリと耳が動く。口ではそんなの読んでんのか、と言ってはいるが、興味津々なのを隠せていない。


 その態度が可愛かったか、笑みを溢しながら彼方は、自然な動作で迅に一回転横に転がって近づき、距離を詰める。


「何て言うのかな……冒険って言っても苦労して仲間と一緒に強くなっていく~~ってのじゃなくてさ、初めっから、もしくは直ぐに誰よりも強くなっちゃうやつ。ほら、前一緒にやってたネトゲとかであったじゃん、チートってのが。アレ系統の冒険物語を読んでたんだよね、ボク」


 去年の始め頃、二人してMMORPGというパソコンでプレイするオンラインゲームに熱中していたのを思い出す。それとともに、誰とも知れない別のユーザーがゲームの違法改竄をし、ステータスを全てMAXまで上げ、確率がほぼ0と云える幻の武具一式を入手し、現実のお金でトレードしていたことが発覚した。


 アカウント停止処分を受けたのだが、懲りもせずに別のアカウントを使って再度同じ行為を行う。チート行為の方法が出回り、多数のユーザーによる違法行為が相次だ。


 それによりゲームバランスが崩れ、サーバーに負担が掛かったかバグが大量発生し、終にはサービス終了と相成った。


 チート(・・・)という単語に、迅はあまり良い印象を持っていない。顔を歪めた少年の気持ちは分からなくもない。いや、むしろ分かる。読む前は自身もそうだったからだ。


「あんなのとは違うって。いきなり最強ってのはアレかもだけどさ、こっちの方は人助けとかしてるんだから」


「んー……ま、好き勝手やってる奴よりゃマシか。向こうに帰ったら見てみるかな」


「その時はボクお勧めを教えたげるよ♪」


 そんな他愛ない雑談を交わし、少年が欠伸をすると少女もつられて大きく口を開き、羽毛の掛け布団の中に入ると直ぐに互いに寝息を立て、夢の中へと旅立って行った。





 迅と彼方の部屋のその隣にある部屋、その一室に宛がわれたのは光魔だった。


 青年は部屋中央に両膝を床に敷かれた絨毯に付き、両手を組んで祈りを捧げていた。


「――神よ、一時的とは云えど、この身に分不相応なる立場に立つことを御許し下さい……」


 小さくも壁際まで届く声で、祈りや懺悔を開始して既に二十分は経っているであろう。寝るまで続きそうであり、第三者がいるならば、敬虔な信徒か仕事以外では付き合う必要を見いだせずに別の場所に向かうことだろう。


 もし誰かがいたとしても、二十分も経てばその場を離れる。ずっと下を向いて、懸命な光魔の邪魔をしないように去って行く。


 その隠れた口元に笑みを浮かべているとは気づかずに……。




 幼馴染み同士が燭台の火を消し忘れたまま、睡眠という大海原に航海に出て一時間ほど経った頃、迅達と光魔の部屋から少し離れた一室に桜華はいた。


 今はジャージ姿からガウンを羽織った状態で、ベッドに腰掛け、考えに老け込んでいるように何も喋らずにいる。ガウンはメイドから夜着にと受け取ったものだ。


 ジャージの下は下着であったが、ベッドの横にある小さな台上に折り畳まれたジャージの上にブラとショーツが置かれていた。つまり、ガウンの下は完全に産まれたままの姿というわけだ。


 ブラジャーという支えが無くなったにも関わらず、桜華の歳不相応の豊かな果実は形をほぼ変えずにガウンを内から推して自己主張している。戦闘力Cの彼方ならば隠せていたであろうが、その数ランク上の戦闘力を誇る桜華には、ガウンは力及ばずに深い谷間を隠せていない。


 画面の向こうから「ガウンニキ、休憩してええんやで?」と言われそうだ。いや、むしろ「私はガウンになりたい……」か?


 ふわふわの毛がくすぐったくも心地よいその衣は、長さが膝下ほどなので秘密の花園は見えはしない。だがしかし、脚を組んださいに少しはだけて魅惑的な太股が露になった。


 程好い肉付きだが引き締まっており、エクササイズか武道かは分からないが、多少身体を動かすことをしていると判別出来るおみ足だ。フェチならば挟まれたら恍惚な表情を浮かべよう。


「…………ふぅ、どうしようかしら。前向きに考えるとは言っても、現状を見ない限りは決めかねる問題だわ」


 偽名を使った少女は一度そう口にすると、頭を左右に振ってから直ぐにベッドの中へと潜り込む。これ以上幾ら思案に老けようと時間の無駄だ、と判断したようである。


 ベッドで横になって三十分ほど経った頃に「女は視線に敏感なのよ」と、いなくなった(・・・・・・)気配に向けて桜華は言い放ち、小さく微笑んだのだった。










 その者は影だ。


 諜報や暗殺などを生業とする、国の裏側に仕える【影】だ。


 ラツィオの勇者達の真意を影で漏らさないか観察してくれ、という下知により、城の中にある秘密の通路を使い、召喚された若者達を室内を覗き込める穴から監視して会話の一語一句聴き逃さないように耳を澄ませる。


 最初に観察するのは勇者になると承諾をした、糸目の少女と鼻が低い少年がいる部屋。


 この二人への女王の感想は【若人】。良くも悪くも子供だ。考えが若者らしく浅はかであり、一番御しやすい。国にとっては助かる存在になるだろう、色々な意味で(・・・・・)


 覗き始めて直ぐに二人は盛り上がっていた。

 チートやらウラシマ効果と幾つかは意味が知れないのだが、英雄だとか冒険だとかの単語からして話題の内容は冒険譚の類いであろう。


 そういうお伽噺で盛り上がるのは微笑ましくもあるのだが──



(何故だろうか? 今、心の底から爆炎魔法ブッ放してえぇぇぇぇぇっっ!!!)



 距離が近いというか、少女がたまに少年に胸を当ててからかったり、何度も同じ手は通用しないと上体を反らしてガードしようとした際に少女の乳房に手の甲が当たり、互いに頬を染め、なんとも言えない空気を変えようと冒険譚の話を再開する。


 意識し合っていて甘い空気が漂っており、影の男はその光景を眺めている間、何処かから「いいぞやっちまえっ」「リア充は爆発しちまえっ」という声が聞こえた気がした。


 心境的に喜んでその声に従いたいが、実際にするわけにもいかず、歯を食い縛り手を血が出そうなほど握り締め必至に堪える。ほどなくして二人がベッドに並んで横になり、静かになった時は、耐えきった自分を誉めた。舌打ちが自身の口元辺りから聞こえたように思えるが、気のせいであろう。


 次に覗くのは司祭の衣服を身に纏った青年。


 カムイ=コウマの印象は敬虔な信徒そのもの。人道に逸れる行いは嫌いそうだが、そこらを気を付けていれば世界を救おうと真剣に働いてくれるであろう。


 場合によってはイレーナに神の御告げが降りたとでも言ってもらい、非人道的行動を強制してもよい。室内で長い時間微動だにせず、神様に懺悔したり感謝したりする姿を見ていると、それもアリだと思わせる。


 このまま観察していても神様になんちゃらかんちゃらと言ってるだけであろう。なので別の場所に移動することにした。


 野郎をずっと見ているのが嫌だからではない。次に向かう勇者候補が美少女でおっぱいがデッカイというから気になって仕方ないという理由では決してない!


 俺は影、感情は切り離せるので嘘ではない!!……………………はずだっ!!


 心なし足が軽くなったか、次の目的地へと向かった。スキップしているように誰が見ても見える気がするが、足音は一切しない。さすがプロというべきか、それとも技術の無駄な活用に嘆息するべきなのかは気にしてはいけない。


 ルンルン気分で訪れた部屋。壁が一部だけ薄くなっており、そこに隠された覗き穴から中を覗くと──


(なっ!? ……なん、なんだ…………一体なんなんだこの胸の──いや魂の昂りはっ……!!?)


 衝撃が身体に走った。少女のとある一部を観て、影の魂は撃ち震えた。


(ほほう……これはこれは良いモノを。あのおっぱいを揉み──もとい、凶器が隠されていないか調べたいところだな、うん! 仕事だから当然の感想だ♪)


 豊かな胸元を視た時は、そんな感想を抱いていた。しかし、そこから目線を下げていき、太股を視界に入れたその瞬間に影は新たな扉の前に立つ。


(む……むしゃぶりつきたいっ! あ、ああああの太股に頬擦りをしたいっっ!!)


 触れると吸い付きそうな、モチモチしていそうな……大人への階段を登り始めた少女特有の瑞々しい柔肌に釘付けだ。


(そ、それに何か呼ばれているような……新たな同志を歓迎する声が聴こえる気がする……)


 神の御告げではない。そうこれは、太股を愛する趣向者の魂の呼び掛けだ。仕事など放棄して、己の欲望のままに往け……と、背中を押している!


 あわや声に促されて欲望のままに新たな世界へ歩もうとした、まさにその時、その瞬間。


(…………あ……ダメ、だ……)


 砂漠の中に紛れ込んだ一粒の砂金のような、微かな理性がストップをかけた。


 影には夢がある。


 影には願いがある。


(必ず……叶え、る…………絶対に、叶えてみせるっ)


 そう、これは一つの奇跡。胸に秘める憧憬おもいが影に理性を留めさせた、小さな小さな一つの奇跡だった。


(俺は……ラツィオ様………………俺はっっ!!)


 身分不相応な憧憬。影は……彼は一人の男として、アルファード女王を愛していた。


(ラツィオ様のおっぱいに顔を埋めるんだっ! 褒美を何でも良いと言われたら、絶対にラツィオ様のおっぱいでパフパフをしてもらうんだーーーーっっ!!!)


 影は愛しているのだ。ラツィオ=ド=スイクゥ=サマンサ=アルファード女王の乳房に恋している!

 影が忠誠を誓っているのはラツィオだ。間違いない。絶対だ。ただ、そうただ【乳房に】というのが後に続くだけであり、その忠誠心は本物だ。他の国に鞍替えするなんてあり得ない。


 そんなことをすれば、愛しきあの胸を裏切ることとなる……。


 動く度にゆさゆさ♪


 歩く度にゆっさゆっさ♪


 手を胸に当てた時のむにゅっとした潰れ具合!


 あの年齢で形が崩れるどころか、歳を感じさせない張り!!


(一日三杯は余裕でオカズに出来る!)


 思い出すだけで下半身のとある一部が硬化していく。まるで異性に目覚めたばかりの思春期の男の子みたいである。


 だが、だが驚くことに影は童貞ではない。


(幾多の女を抱いても……幾多のおっぱいを見ても、ラツィオ様のおっぱいには遠く及ばない! 確かに中には良いおっぱいはあったが、俺は初パフパフはあの至高で究極のおっぱいだと決めているっ! かの胸に顔を埋めるためにパフパフは童貞を守ってきたんだっ!!)


 ある意味で一途ではある……。


(少女よ……その太ももはとても素晴らしいものだ。しかし、ラツィオ様のおっぱいには及ばなかった……。俺を同志として招こうとした諸君、すまない……)


 影はアルファード女王の豊かな乳房を裏切らなかった。


 影はさらに強くなった憧憬を胸に、少女の監視を終えて音もない足取りで外へと出た。雲一つない空には満月が浮かび、無限と云える星々が煌めいていた。


(すまない…………扉は初パフパフの後に開くとする。待っていてくれ……!)


 …………変態の夜は新たな決意を胸に秘め、人の気配がない場所で自家発電をしながら老けていった……。




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