プロローグ・五
書いていると、自身の語学力の無さに笑いが出てきました。
というわけで(どういうわけだ)、プロローグの五をどうぞー。
――其処は何者も汚しては生らぬ純白な世界。
神聖、荘厳、聖域、人で在ればそのような言葉の羅列を述べよう。
だが、しかし、それは所詮人間の考えた単語でしかない。
それでも、そうとしか言い表せない世界――神々が住まう世界が存在していた。
「――嗚呼……どうしたことか……我が絶対なる主よ! 何故……?!」
その神々しき白の世界に、背中に白色の羽根を二対生やした存在――天使が目前の主神に問い掛ける。
「……構わぬのだ」
「お……おぉ…………っ」
絶対の神の御言葉に泣き崩れ、四枚羽根の天使は必死に現状から眼を背けようとした。
神――いや、今は"椅子"と例えるべきか――は屈辱に歪もうとする表情を全力で押さえ付ける。
一体全体、どのような状況なのか。
それは、
「――ああっウザイ! んだよ、この雑魚はっ」
神を四つん這いにし、その上に座る男性――神威光魔が原因であった。
時を少し戻そう。
人の時間で一時間ほど前だろうか。
数多の世界を創り、その中の一つであるエドルを創りし創造神――アルディーヴァは目前に浮かぶ映像を面倒臭げに眺めていた。
映るのはエドルにある一つの村落、そこで今まさに魔王の軍勢が押し寄せ、男や老人などの村人を引き裂き、小さな餓鬼――ゴブリンや豚のモンスターであるオークが女を犯している。
軍勢を率いる将だろうか、常人ならば眼を背けたくなる光景を眺めながら、その青い巨躯だからこそ出来るのであろう、恐怖に頬が引き吊った子供を掴みそのまま一気に口の中に入れ噛み砕く。。
アルディーヴァは映像を別の場面に変えるも、ほぼ内容は同じ場面が映った。
「……面倒の極みであるな」
蹂躙されている状況を観ての言葉がソレである。
神からすると、人や多種族などが殺されようが興味を持つほどのことではない。
人間では想像出来ないであろう歳月を生きているから……というのも理由の一つではあるのだろうが、蟻が踏まれて一々気にする人などいない――いても極少数だろう――のと相違ない。
あるとすれば、靴が汚れた程度の不快感ぐらいであろう。
「む? ……ああ、お主か」
突如として現れた気配に視線を向けると、そこには漆黒の羽根を背に生やす男性――光魔が苛立たしげに立っていた。
「お主か……じゃねえ。俺様が愉しんでるとこで呼びやがってよっ!」
機嫌がすこぶる悪いようで、燃え盛る焔のような紅き瞳に、激しい怒りを隠そうともしておらず、創造神を睨み付けている。
「それはすまないな。だが、充分遊んでおったであろぐがっ?!」
「ああ゛っ! それはテメェが決めることじゃねぇっっ!!」
癪に障ったか、ただ手が早いだけか、光魔はアルディーヴァが言い終える前に蹴っ飛ばす。
この場合は手が、ではなく脚が早い、であろうか。
それはまあいい。倒れた神の顔を踏みつけ、怒りを越えて殺意をぶつける。
「ぐ……ぅ、がふ……か、重ね重ねすまない……」
神が地に伏せる姿が愉快だったか、突如ゲラゲラと嗤い出した。
激しい物音と大きな嗤い声を聞きつけ、警備、それも近衛の者たちが室内に雪崩れ込んでくる。
「我が主よ?! なっ、き、貴様はなに――」
またしても言い終える前に手が出た。それも今回は光る球体を駆け付けてきた近衛兵皆に投げ、小爆発が起こす。
爆煙が散るとヒラヒラと数枚の羽根が舞うだけで、そこには近衛兵達の姿は消え去っていた。
「ウルセェよ! 俺様の邪魔する奴は消えちまえっ」
消えた者たちへの言葉ならば遅い――が、近衛の中の一人の天使だけはギリギリ回避出来ていたようで、その者へと殺気混じりで言い放っていた。
「……くぅ……神よ……この者は一体何者なのです……」
敬う存在を足蹴にしている男に、近衛隊の隊長は憤怒の目を向けつつ問う。
「……この者は――」
「俺様か? 俺様はテメェらが敬愛しちゃってる這いつくばった雑魚神様より強~い絶対者だ! 敬っていいんだぞ~、ゲ~ラゲラゲラッ」
「くぅっ、貴様――」
「止めよ。耐えるのだ……」
「っ…………御心のままに……!」
近衛隊長と神のやり取りがツボに入ったか、耳障りな嗤い声がしばしの間、周囲に響き渡った……。
数分後、アルディーヴァを椅子にし、その上に座ったところで冒頭へと戻る。
「――んで、上から目線の雑魚神が俺様を呼んだ理由はなんだぁ~? くっだらねぇ内容だったら殺すぞ」
座り心地悪いなぁ~、と洩らしつつ返答を待つ。
「おまガァッ?!……っ……貴公に頼みがある……あります」
「頼みだぁ~? この俺様の娯楽を邪魔するほどの内容なんだろうなぁ~?」
「はい……。惑星エドルにて問題が発生したのです」
「んなもんテメェ~が解決しろよ」
「それが……エドルに突如として変異し顕れた魔物――今は魔王の位にいます――が……私より遥かに強く、手が出せないのです」
笑いの沸点が低いのか、感情の起伏が激しいのか……、光魔は神から転げ落ち、腹を抱えて文字通り呼吸困難に陥るまで大笑いする。
恥辱と憤怒に顔を赤くする創造神がまた笑いを誘ったからか、十分以上は転げ回っていたであろう。
「くは……ぷぷ……お、お~け~お~け~♪ こ、こん……こんなに笑わせるほ、ほど……くくっ、困ってんだな~……は、はら……やべ……ぶふっ、はははっ!」
まだ笑い足りないのか、口の端から息を吐き出したりし、目尻からは涙がポロポロと零れ落ちている。
「あ~~腹イッテェ~……くくっ、笑い死にさせる気かってんだ。しかたねぇ~な、一肌脱いでやるとするか。弱~い雑魚神様が勝てないから、わざわざ強~い俺様を呼んだほどの相手……気になって気になって、このまま帰っちまったら気持ちワリィしなぁ」
「……ありがとう、ございます……!」
「いいっていいって。え~と、なんだったっけか…………そうそう、じゃくしゃをまもるのがきょうしゃのつとめ~、ってやつ?」
気を良くしているところを、さらに後押しするかのように、終わればエドルを好きにしていいと告げる。
「お~お~、わかってんじゃねぇ~かっ! よ~し、んじゃ次はどんな風にして遊んでやるとするかなぁ~♪」
「……間もなくエドルにて勇者召喚なる儀式が行使されます。なので――」
「わーってるよ、そいつに便乗して召喚されました勇者で~す! って感じにしときゃい~んだろ? そんじゃ行くとするかぁ」
背伸びをし、さぁいざ行こうとしたところで、
「あ、良~いこと思いついた。よっし、コレで行くかぁ!」
と、きっとロクでもないことであろうが、準備のために漆黒の翼をしまい、衣服を地球で言うところの司祭服へと瞬時に着替えた。
「あとは笑顔笑顔~っと♪」
誰だお前? と訊きたくなるほどの好青年顔を作った光魔は、これから始まる遊び場に目を輝かせ、
「それでは、世界を救いに参りましょう――――なぁ~んてな! ゲ~ラゲラゲラゲラッ♪」
哄笑を上げ、神威光魔は神々が住まいし世界から姿を消していった。
光魔が居なくなるとアルディーヴァは立ち上がり、汚れた衣を一瞬で別の物へと変える。
近衛隊長も痛みを堪えて即座に姿勢を只し、主神へと気遣いの声を掛けた。
「……大丈夫だ、怪我はない。アレで一応は手加減しておったからな」
「そう、でしたか……。我が神よ、再度訪ねることを御許し下さい。あの者は……一体何者なのですかっ? 汚ならしい言語さえ耳が穢れそうだというに、神を尻に敷くなど赦されざる所業っ!!」
敬う気持ちなど微塵もない態度、それだけに足らず暴力を振るう行為に、隊長は怒りを表情にありありと浮かべている。 神は自身を敬う敬虔なる家臣を宥めると、神威が来る以前に座っていた椅子へと腰を下ろす。
「……汝も聴いたこともあろう。我々――神であろうと天使であろうと、等しく力を吸い取り、逆に負の力を注入させ死へと到らしめるか、堕天させ下僕とさせる邪の力を持ち産まれし異端児をな」
「なっ?! そ、その者は昔に封印したと祖父から聞いたことがありますっ。もしや封印が……!」
幼き頃――と言っても数百年はゆうに経ってはいる――に聞かされた忌み子の話を。先々代の近衛隊長である祖父に、邪なる者を犠牲を出しつつも封印した、と……。
「封印は確かに成功した」
「ならば、何故……」
「……あやつは封印の中で力を蓄え、僅か数十年で内側から封を破りおった」
そう簡単には破れぬよう、その頃、自身の腹心であった一柱の神の命と引換に、厳重に施した封印を、な……と、続ける。
「!? そ、それはまさか――」
「うむ……我の妻――エルデリートだ」
「も、申し訳ありませんっ! 配慮に欠ける発言、如何様にも罰を!!」
両膝を付き心の底から謝罪してきた近衛隊長に「気にするな。面を上げよ」との声をかける。
「我々が……エルデリートが命を使ったというに、あやつを封じれたのがあの程度……」
瞳を綴じ、過去に思いを馳せているのだろう。
しかし、それも数瞬のこと。
「封印を破られてから歯痒くも好きにさせていた。アレに壊された世界も10を超えておる。隠し通すにも限界が近づいていた」
ムカつくから、飽きたからといった理由で数えきれないほどの生命を屠っている。罪悪感など一切持たずに……。
「封印などでは無意味――故に、あやつを次こそ葬り去るために、我は毒を使うことにした」
「毒……ですか?」
そのようなモノで、文字通り命懸けの封印をあっさり破る存在を殺せるのだろうか? と、近衛隊長は疑問を感じた。
それに対して、
「そう、毒だ……それも只の毒ではない、あやつさえ確実に始末する"猛毒"をな――」
創造神アルディーヴァは歪んだ笑みを口元に浮かべ、そう言い切ったのであった―――
今回でプロローグは終わりとなります。
次回からは題名を 一話 と、させていただきます。