プロローグ・四
紳士とは一体何なのだろうか?
プロローグの四、どぞー。
「――全裸待機よ」
都内某所に建つマンション、その最上階の西側に位置する部屋にて何やら耳を疑うような発言を部屋の主が呟く。
一体全体どのような経緯でそのようなアレな言葉を洩らしたのか。
「は……? 幼女連れ込みたい? ふざけないでくれるかしら。幼女は視て愛でるものよ、触れてはダメなの」
きっと分かる人なら分かるのかもしれない。
どうやら危ないことを口にしてはいるが、それは人にではなく少女が視線を向けているモノ――PC本体に繋がれたディスプレイの画面に流れたコメントに対して言っているようだ。
「紳士なのであれば理解しているはずよ。幼い天使に触れた瞬間――それはただの犯罪者なの!」
至極ごもっとも。
画面にはアニメの幼い女の子だろうか、その娘が映る画面にてコメントで口論している。
少女――四ノ宮桜華は表情は無表情だが声には熱が入っている。
様々なコメが次々に打たれ、幼女触れてもいい派、桜華と同じく触れてはいけない派、他にヤジを飛ばしたり両派閥を収めようとする者たちにて、画面は既に幼女の画像はほぼ見えないほどコメントで埋め尽くされていた。
既にコメの数は万を越えており、荒れに荒れているので誰かが通報でもしたのだろう、突如としてその動画から弾き飛ばされてしまう。
「あ…………はあ……何か不完全燃焼。他の動画見よう――の前に服を着ないとダメね」
どうやらガチで全裸だったようである。
桜華はヘッドフォンを外して立ち上がると、ベッドの上に畳んで置いていた衣服を着ていく。
スラリと引き締まった脚を通してシルクのショーツを履き、今年十七歳になった少女とは思えないほど育った豊満な胸をブラジャーで覆う。
次に紺色のジャージを上下に着ていく。
いざ上を羽織ろうとしたところで、部屋の扉をノックする音が鳴り、直後に一人の男性が入室してきた。
「桜華、伝え忘れていたことがある」
「兄さん……出来れば妹とはいえ女性の部屋に入る場合、返事を待つべきよ」
「そうか、以後気をつけよう。で、話しなのだがな」
気をつける気がまるで感じられないまま、オールバックにした黒髪、鋭い眼差し、藍色のスーツを見事に着こなした男性、桜華の実兄――四ノ宮斗真は淡々と用件を告げていく。
内容はこうだ。数ヵ月ほど妻と一緒に仕事で海外に行くので、一人で暮らすことになる。
生活費は最低限送るが、足りないならばバイトをして稼げ、というものだった。
「――というわけだ、理解したな?」
「ええ、分かったわ」
「失礼したな。…………ふん」
「……人の胸を見て鼻を鳴らすのは、失礼極まりないわ」
「妹の裸を見て喜べと? なんてくだらない」
「道徳的にそうなのだけれど、何か納得出来ないものがあるわね……」
さすがにくだらないとまで言われたら、いくら妹とはいえ複雑なのはひとえに女心が関係しているのであろう。
「ではな」
「ええ、いってらっしゃい、兄さん」
だがそんな女心さえどうでもいいのか、兄は振り返ることもなく部屋を出て、直ぐに玄関の扉を潜って仕事へと出掛けて行った。二日前に自分達兄妹の実家へと行っている義姉をこれから拾って空港へと向かうのであろう。
「…………ふぅ。あそこまで興味を一切持たれないのはある意味清々しいぐらいね」
と口にしてはいるものの、判りづらいのだが表情はあまり優れていないように見える。
ふと姿見が目に入り、桜華は羽織っていたジャージの上と履いていた下を脱いで鏡の前に移動する。
「……腰まで伸びた黒髪のロング。十七の歳にして九十七のGに五十九の腰の括れ、安産型の八十九のお尻……」
胸に手を当て、次にウエスト、ヒップへとなぞっていく。
「目は丸目でちょっと垂れ目勝ちの少し幼い感じ、鼻は天の鼻タイプ。唇は濃いめの桜色……。うーん、顔の造形は部分的と言えどそこまで悪くはないと思うのだけれど……」
やっぱりあまり変わらない表情が女としての欠点かしら、と腕を組み首を傾げて真顔で思考する。
「はあ……。まあ、それはきっとわたし自身が決めるのではないのかしら。正直自分では考えられないけれど、好きになった男性がそれを判断するのね、きっと……多分……」
果たしてそんな未来はいつ訪れるのやらと、頭を左右に振ってから衣服を着ていく。
「もうこの際、異世界にでも勇者召喚とかで喚ばれたりしないかしら? 案外、そこで運命的な出逢い――――正直自分で言ってて恥ずかしいわね」
ポッと頬を朱色に染め、照れ隠しでブンブンと頭をシェイクしたところで、
「――――あら? え、まさか……本当に――――――――」
離れた場所にいる迅と彼方と時同じくして、四ノ宮桜華も地球上から姿を消してしまった――――
無表情、でもポッと頭を赤くする姿に萌える作者です!!
き……きっと分かる方もいる……はず……だよね?