プロローグ・二
二話です。鶏ではありません(あ、石投げないでっ)
「皆々様、こちらのご都合により長い間お待たせさせてしまい、申し訳ありませんでした」
儀式を見届けるがために集まった自国と他国の王へとイレーナが深々と腰を折って謝罪の意を口にする。
その声は大きくないにも関わらず、清んだ声音はするり耳に入って来て心地好い。
今、ラツィオや他国の国王らがいるこの間はアルファード城の最奥に建つ神殿の地下。
城の主であるラツィオさえも気安く足を踏入れれる場所ではない。
その部屋は白に塗り潰されたかのような印象を観る者たちに与える。
室内は巨大な大理石をくり貫いたかのように天井や床、四方全てが白く、そして継ぎ目が見受けられない。
無機質なはずの壁は四隅に立てられたトーチのオレンジ色の炎に照され、乳白色の色見へ彩られどこか母親に抱かれたかの如く、ぽわっと心が温かかく穏やかな気持ちへとなる。
ここ数日間を悪い意味で賑わかせ、この場へ至る道中も何かと口喧しくいたハザン独立国の王も、室内の柔らかな雰囲気により静かにイレーナの謝罪を受け入れ、許しの声を返す。
「イレーナ様、これを……」
空気を読んだか、扉の横に控えていた初老の女性がイレーナの隣へと歩み寄り、儀式に使うのであろう杖と多種多様の宝石類を差し出す。
それに頷くと羽織っていたストールなどの衣服をとる。
「ほぉ……」
「これは……」
「お美しい……」
ほぼ全ての衣類を脱いだ肢体には、ネグリジェを彷彿させる薄いレースの布を纏っているのみ。
露になった肌には紋様――古代語だろうか――が画かれており、厭らしさなどなく、何者にも汚すことなど赦されない神秘性を視る者全てに与えた。
そこかしこで知らず知らずに零れたであろう感嘆の吐息は必然とさえ思えてしまう。
だが、イレーナは既に何も聴こえていないほどに意識を集中させ、受け取った数々の宝石を決められた場所へと配置し、最後にその中心部にて刃物のように磨がれた琥珀で掌を切り裂き、滴る紅い血でシャーマンにのみ伝わる紋様を白き床へ描く。
中心部から宝珠を囲んで行き、多量の血液を流し使用したと想像するのは難くない。
大人ならば目眩を覚える程度であろうが、抱き締めれば折れてしまいそうな躯からすれば危険な血量で書き終える。
松明を四隅に設けているとはいえど、お世辞にもあまり光量があるとは口に出来はしないだろう。
そのような薄明かりの中でも判別出来てしまうほど、その顔色は蒼白い。
「――っ……! ふぅ……はぁ……」
立ち上がりの一瞬、フラりとよろめいたが足腰に力を込めて倒れずに済む。
幾度か深呼吸をすると、
「――――――――」
イレーナは謳うように、詩を朗読するように高くも耳障りではない声色で、今は一部の種族と極々一部にしか伝承されていない精霊語を読み上げて往く。
次第に紋様――あえて魔方陣と表現しよう――に四方の篝火が一気に燃え上がり、魔方陣をなぞるよう迸る。
室内は火の灯りで端々までくっきり見えるほどまでなったが、温度が上がることはなかった。目の前で、確かに燃えているはずなのに……。
火の粉が舞い上がり、イレーナの周囲に集い舞い踊る。
瞳に映る少女は神秘……いや、神々しいほどにも威厳があった。神の御使いと紹介されれば、疑うことなく信じてしまうだろう。
集った者達が魅入っていると、ふいに魔方陣の上で揺らめく炎と舞い散り踊る火の花片がピタリと停止した。
世界が止まったかと錯覚する光景。
そして――――――
次話、いよいよ出てくるか…………?
あ、はい、出ませんごめんなさい!!