十六話
「これは……驚きました。本当に再生していきますね……」
皆の目には今、大きな穴徐々に小さくなっていく光景が映し出されていた。それはまるで映像を逆再生しているかのようで、一分も掛からない内に部屋に空いていた大穴は何事もなかったように元の燭台が付いた壁へと戻っていた。
まさにファンタジーの世界が目前で繰り広げられたことにより、呆気に取られていた幼馴染―ズがテンション爆上げになったのも当然のこと。
まあ、何故かとある人物に愚痴やら説教をしていそうな女性から怒気の視線というか怒鳴り声がしたような、聞こえたような気がしてテンションは下がったのだが……。
きっと今頃愚痴や説教を受けている人物が涙目にでもなっているかもしれないが、今はどうでもいいことか。
「このように壊しても直るから大丈夫なのん」
少し自慢げにくたびれたローブがスーツに見えてきた定年退職したようなおじさんがそう口にする。そう、声色は渋い声とは反対に位置する甲高い声で。例えるならばそう、声優の金〇朋子に合致する声域。いやむしろそのものか?
「分かったのん? よろしいのん。あ、そうだ自己紹介してなかったのん、僕はこういう者なのん」
そう言い、懐から文字が書かれた一枚の長方形の紙片が代表者格の光魔に手渡された。それはサラリーマンや業界に所属する者ならば見慣れた紙片――名刺である。
「それは僕が発明したのん」
手渡れたモノに視線が集まっているのを、こんな便利なものが?! と驚いたと勘違いしたか胸を反らして自慢げにそう言うも、光魔達は別のベクトルで驚いていた。いや、驚いているのは三名で、残りの二名はそのまんまサラリーマンじゃないかと言い笑いたいのを堪えてプルプルしている。笑わないの相手に失礼だからという配慮からであってほしい。またどこからか怖い視線的なモノが来そうだから我慢しているわけではないと思いたい。
「すみません、まだわたし達は文字が読めずにいまして……。いやはや、しかし凄いですね、わたし達の世界ではよく知られているモノであるから驚いてしまいました」
自分達の世界では名刺というもので、その説明をしながらも相手に不快な思いをさせないよう気配りをしている。
「これを発明とは……恐れ入りますね」
と、最後に続けたことで、もう元サラリーマンでいいだろう的な魔法使いのおじさんは鼻高々と機嫌マキシマムだ。
「ふふふーなのん」
えっへんと胸を張る姿を脳内で変換して幼子が大人のフリをしていることに置き換えたことで、とあるボンキュッボン女子高生はトリップすることに成功した。もちろん無表情なのだが、一人だけそのことに気づいていたりする。