十五話
カーリアンに再度明日の事を釘刺された面々は二十分ほど小休憩を挟み、イレーナの案内でとある大部屋へと訪れていた。本来ならばリーゼナルが案内するはずであったのだが、カーリアンに首根っこを掴まれてズルズルとどこかへと引き摺られて行ったので急遽イレーナにお鉢が回ってきたのだ。きっと今頃愚痴られているに違いない。上司として部下の不満を聞くのも仕事なのです、ええ、多分。
「確かここで魔法の練習をするんだよな……?」
そう訝し気に呟くのも仕方のないことだろう。練習するのだから屋外だと思っていたのだ。攻撃魔法――火や風など使うのだから屋内だと火事になったり室内が散らかり掃除が大変になるはずだ。ざっと見まわしても特別なモノは見当たらない。王城の一室としては質素な装飾であり、机と椅子のセットが一つ。壁には日が落ちると灯すであろう燭台があるぐらいか。あえて述べるならば部屋の横側にででんと存在している土の山。幼児が遊びそうな土の山だ。若干一人がトリップしているが気にしてはいけない。「二人で一生懸命穴を掘ってトンネル開通して喜ぶ幼女たち……ふふふ」とか聞こえてくるが幻聴だ、そうに違いない。
「ふっふっふー、迅は甘いねー、氷砂糖のように甘いよ!」
「何がだよ?」
「こういったシチュエーションだと室内自体に保護魔法とか別空間になってたりとかするんだよっ」
「おおっ?! それは確かに魔法っぽいな!」
と盛り上がる二人なのだが、イレーナが申し訳なさそうな表情をしている。どうやら幼馴染―ズがはしゃいでいるようなことではないようだ。だがそれを今言うのも水を差すようで申し訳ないと感じている様子。
光魔がそんなイレーナに気づいており「なんだかすいません……」とか謝っていたりしていると、
「残念、目の付け所はとってもいいけど生憎とそのような魔法はかけていないのん。でも昔はそんな魔法を部屋に掛けてたみたいなのん」
幼い声が盛り上がっている二人に掛けられた。「幼女ボイスっ」とトリップから帰還した人物含めて声がした方を向くとそこには待ち望んでいた幼女が――
「この部屋には再生魔法を掛けてるのん」
居なかった。そこに居たのは定年を迎えたところぐらいの年齢の普通のおじさんの姿が。特徴も何もない平凡なサラリーマンが定年退職したような……そんな普通のおじさんだ。イケメンでもなければ渋面でもない。頭は円形脱毛症の末期で両サイドに茶色の髪が残っている。これが黒髪でスーツを着せたらくたびれたおっさんの出来上がり。顔も東洋人に近い造形で、きっと日本に行っても違和感が仕事しないであろうほどの普通のおじさんだ。なんだか黒いローブがスーツに見えてきた。
「再生魔法と言いますと?」
バカップルはそのギャップに笑いを堪え中であり、幼女好きは現実に絶望したのか地に膝を着いている。そんな幼女好きを慰める髪としか言えない人物。光魔だけが冷静に対応できる状態だ。こんな勇者(候補)達で大丈夫か?
「言葉通りなのん」
と実際に見せた方が早いとおじさんが詠唱を始める。
『火の精霊よ我に御身の力を貸したまえ 我が前に立ち塞がるモノをその紅蓮の業火により燃やし尽くしたまえ ヘルフレイム』
掲げた手の平から燃え盛る紅蓮の焔が壁に一直線に向かい、着弾とともに轟音を轟かせて突き破った。空いた壁の穴はシュウシュウと音を出し真っ赤に染まり、場所によっては焔の熱量で溶けている。その光景に迅と彼方は口を開けて目を見開き、おじさんがしてやったりの得意顔をした。スタイル抜群の女性はまったく驚きもしていないので少々残念ではあるのだが……。
だがその本当に高校生かと疑いたくなるスタイルの持ち主なのだが、内では「厨二病詠唱キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!」と盛り上がりとともに全身むず痒くなってクネクネとしている。外からは無表情で腕を組み平然としているようにしか見えないのだが。
そしてその組んだ腕により自己主張しまくりのお胸様にイレーナが若干羨ましそうに眺めているのだが、そこは年齢が年齢だし将来に期待としか言えない。だがしかし世には貧乳をステータスだと無い胸を張る強者がいるのだから今のままでも大丈夫なのかもしれない。日本にはロリ巨乳というのもあるのだが……今は何も言わないでおこう、うん。