十四話
迅は余裕を持ってクリアして、彼方はひいひい言いながらもなんとかかんとか罰の腕立てを終わらせる。汗を掻いたもののようやくの武器選びに大興奮――はカーリアンがジロッと熱い視線を向けてくるので内心に止めて置いて、迅はカッコいいという理由と、あと最近やっていた巨大モンスターを狩るゲームで己が使用していた武器とのことで両手剣を選んだ。
「おっ、ずしっとはするけど案外持てるもんなんだな」
二、三度ブォンッと風切る音を鳴らしながら振ってみると、体は少々遠心力に持っていかれるようにフラッとするのだが慣れたら問題なさそうだ。
「いやいや、それ普通に重たいと思うよ? これはアレだね! ボクが思うに筋力がこちらに来てから上がったと推測した。そうでもないとそんな大きな剣を持てたとしても振れるわけないもん」
「ああ、確かにそうかも。二十はいかないでもそれに近い重さだと思うし」
彼方に言われて納得する。持てるのは持てるだろうけど今のように柄――端を持って持ち上げ、あまつさえ振るなんてことは出来ないであろう。両手でも、だ。この世界に召喚されてから今まで特訓などしていないのにこのように持ち上げ尚且つ素振りが出来てしまった。
「これはアレだね、召喚補正……あ、この場合は勇者補正かな? あっ、だからきつくてもボクも腕立て50回出来たんだね」
「あー、なるほどなるほど。そうじゃないと平均より身体能力下n――」
「あれあれ~? 筋力がある迅くんに質問。この前ボクが羽交い絞めしたのに振り解かなかったのはなんでなのかな~? 迅くんは力あるのに非力のボクを振り解かなかったのはなんでなのかな~??」
もちろん背中や後頭部に当たるマシュマロの誘惑に負けたから! なんて公言出来る訳などなく、迅は即座に土下座で茶を濁すことにした。
「あの男……DOGEZAを舐めているのかしら?」
「迅のエッチ♪」と耳元で言われて顔を赤くしている迅に萌えなど一切せず、逆に土下座道を汚す面汚し目的な敵意を孕んだ視線を向ける者が一人いたのだが、そのことに気づいたのはこの場に一人だけであった。
「え、え~と、彼方さんはどの武器をお選びになられたのでしょうか?」
「知りたいの? そんなにボクのことを知りたいなんて……きゃっ♪」
「なんでそんなに嬉しそうなんですかねぇ? あとなんでオレの上に座ってるんですかねぇえっ!?」
「ボク結構安産型だと思うんだー」
「確かになんとも気持ち良い――はい、しばらく椅子になってます」
いつの間にか背中に座られていたのだが、自らの失言によりもうしばらく人間椅子になることとなってしまうが、背中に感じる彼方のお尻の温かくて柔らかな感触がまったくもって不快じゃないので、少々嬉しいような屈辱かもしれないような微妙な気分を味わう。
傍から見ると本当にバカップルで、イラッとしているのもチラホラといた。
▽▼▽▼▽
カーリアンの「イチャイチャするなら部屋でやれっ!」的な雰囲気で幼馴染のお二人は頬を赤くして皆から一歩下がった場所に待機する。別に恥ずかしいくは無くも無いのだが、カーリアンの目が結構ガチでキレそうなほど吊上がっているので少しでも離れようといった心理から一歩下がっているのかも……?
「良かったですね、貴方方が勇者もしくは候補者で」
そうでなければ地獄を見せたのにとの幻聴が聞こえたような気がするが、これ以上無駄に時間を取らせると真面目にヤバそうなので皆は静かにカーリアンの次の発言を待つ。リーゼナルが空気と化しているのは気のせいだ。
「時間がもうあまりありません。ええ、本来ならば既に素振りで手足がガクガクになっているはずの時間なのですが……何故でしょう? まだ訓練すら始めれていないのは何故でしょう? 不思議ですね。きっと明日以降はこのような無駄な時間を過ごしはしないはずです……ねぇ?」
勇者と候補生が慌てて壊れたように首を何度も縦に振る。このあと魔法の訓練で、しかも夕方前には各国の王達が自国へと帰国する前に最後に見学することになっている。もちろんそこにはあの嫌な中将もいる。今日の成果を知られると絶対嫌味を言われる。間違いなく言われる。言わないはずがない。
そのことを思い浮かべると気が滅入る。
召喚者達のせいで予定が狂ったとしても、いくら自身がしっかりとしていても結果が全てだ。数時間使ったのに武器を選んだだけという結果が全てなのだ。
憂鬱にもなるし怒りがふつふつと湧くのもしかのないことであろう。