十三話
「笑窪を浮かべた満面の笑顔は確かに|同類(私達)への強力な武器になるわね」などブツブツと聞こえてくるのをあえて無視して、光魔は一つの武器を手に取った。もちろんカーリアンへの許可は頂いております。
「ほう、ショートソードですか。何故それをと訊いても?」
刃の長さは40~45㎝辺りか、片手で振るために柄が片手の拳分ぐらいしかない短剣を選んだ光魔に、カーリアンは興味を惹かれて尋ねると、
「いやはは、わたしは非力ですので軽そうな武器をと……。それに子供の頃に読んだ英雄譚で英雄がシュートソードを使用していたのを思い出しまして」
この歳になって子供っぽいかもしれませんがと照れ臭く笑う光魔にリーゼナルとカーリアンがくすりと笑みを溢す。先ほどの|迅(子供)に相反するほっこりさに思わず漏れたようだ。つまり良印象である。カーリアン的にアレを無しにして光魔をただ一人真の勇者にしたほうがいいのではと内心で思うのだが、自身が国に対しての発言力が無いのは知っているので胸の内に止めて置く。
あとは未だに少し離れた場所で光魔を羨ましそうに視ている迅と、なんとか少し落ち着いてくれたとため息を吐いている彼方、そして――
「決めたわ、私は幼女愛を伝える伝道師になるわ!」
「「どうしてそうなったのっ?!!」」
もう少しというか幼女愛なるものは今は横に置いておいて、もう一度考えてくれとの言葉に桜華は不承不承といった返事で武器類を物色する。とても不満気であるが、自分でも確かに武器とは離れたわねと一応納得した。ここが地球だと間違いなく警察へ通報されただろうが、桜華はそんな些細なことは気にしない。何故なら、
「幼女は触れてはいけないの。観て愛でるものなのよ」
ということだからだ。変な悪戯はしないのだから、お天道様に顔向け出来ないことはしていないわ、とのことらしい。
そして突然何かしら発言した桜華にリーゼナルとカーリアンは頭を抱え、光魔はただただ苦笑いを浮かべていた。
▽▼▽▼▽
桜華が悩んだ末に選んだのは手甲であった。リーゼナルが心得があるのかを訊ねると護身で習った中に武術もあったとのこと。「職業が判らないけれど、あえて拳にしてみた。後悔はしていない」とは桜華の言。
げんなりとしている方々へと迅と彼方が寄ってきた。様子を見てから彼方が迅を引っ張ってきたといったところ。迅がばつの悪そうな表情をしているのが萌えポイントなどではけっしてない。カーリアンがもんのすっごく面倒臭げな表情をしてきたので多分萌えポイントではない。でもそんなガキンチョに母性が擽られているお方もいるようで……はい、彼方さんです。もうっしかたないな~といった生暖かい眼差しを向けています。彼方にとってはが頭に付くがやはり萌えポイントなのか……?
「萌えとは何か……哲学」
「貴方まで何を言い出すのですか? そんなことよりも早く武器を選んで下さい。もうすでに予定よりも時間が過ぎているので」
一応迅を視界に入れたが、まだ二人とも腕立てを達成していないので武器を選ばせる気はないと言外に滲ませる。まあ、さっさとやれと本来は言いたいであろうが。
「は、はひぃっ!!」
びくりと肩を強張らせ慌てて武器を選ぼうとするも「ぷぎゃっ?!」と足をもつれさせて盛大に転げてしまう。さらに怒られてしまうかもとの強迫観念に迫られたのか立とうとしてまたこけ、立ち上がろうとして器用に腕に足を引っかけてまたズベッと転倒。それはもう某お笑い番組さながらのようであり、無様で滑稽である。
リーゼナルはここまで運動神経が繋がっていない人に初めて遭遇して呆気よりも感心し、カーリアンは桜華に続いてと頭を抱える。光魔は頬が引きつりながらも笑いを堪え身体を小刻みに震わす。彼方は純粋に喜劇を見た客のように笑い声を上げていた。だが迅は先ほどの件もあり口端を上げ侮蔑の笑みで鼻を鳴らす。溜飲が下がったようだが桜華が迅に向けている視線はこれ以上ないのではないかと思わせるほど冷めに冷めきっていた。