五話
「次はわたしですね。いやはは、神に仕える者としても光属性とやらに適正があればいいのですが……神よ……」
迅を少し羨まし気に見て、光魔は正面で十字を切ってから水晶へと手を伸ばす。するとどうだろうか。玉が目が眩みそうなほどの光量に光を放つ。数秒どころかその数倍の時間発光し続け、次第に光が収まると青、緑と色を変化させた。
また三属性だと驚きの声が…………上がらなかった。
しばしの静寂に光魔が居心地が悪そうに身じろぐと、思い出したかのようイレーナが説明を始めた。
「す、すみません………あまりにものことに驚いてしまいました。コウマさん、貴方は真に神の御使いなのでは? これほどの光属性に適正を持つ者を私は存じ上げておりません」
過去に英雄や勇者、偉人と呼ばれた者達も含めて、と言葉を続ける。城に厳重に保管された、一般には知られることのない……世に出ることのない書物を紐解いても、と心で更に付け加えた。
「水属性と風属性、そして光属性からすると、コウマさんはサポート向きと言えるでしょう。アンデット族や魔族に対してならば向かうところ敵無しと言っても過言ではありません」
「ほっ……良かった、と言うところですね。内心光属性ではなくて闇属性などだと数日の間ショックで寝込むのではと冷や冷やものでした……」
胸を文字通り撫で下ろす光魔に他の面々は顔に笑みを溢す。
「…………上がって下がったテンション、ねえ、どんな気持ち?」
珍しい属性だったので有頂天とまでは行かぬともテンションダダ上がりだったのが一気に影が薄くなった迅に彼方が止めを刺す。
「……………………優しさが欲しい……です……」
何やら目から零れそうな液体を袖で拭って、優しくない幼馴染にガクリと肩を落とす。それに気づいた光魔が何やら申し訳そうに謝罪をしたのが止めだったか、謁見の間の隅にて膝を抱えて座り込む迅に、彼方は――――――更に弄り始めたのだった。
傍からみると完全に恋人同士のイチャイチャである。
イレーナにフォローされてたりもするのだが、いかんせん男の子。女の子、それも可愛い娘となるとカッコつけたくなるお年頃の彼方には逆効果でしかなく、復活したのは頭皮が薄い王の怒鳴り声が上がったころであった。
バーコードリーダーが通りそうなヘアスタイルの持ち主により空気が悪くなってはいたものの、脱線していたが、残り二人の適正属性を調べることを再開する。
「もう始めてもいいかしら?」
「あ、はい、申し訳ありません。大変お持たせしました」
深々と頭を下げるイレーナに気にしないでいいと(本人的に微笑みながら)告げてから手を翳す。
「………………反応が無いわね」
十秒二十秒と待つも、水晶に変化が見られない。それはつまり―――
「適正が無いのね」
今の流れでまさかの適正無しに微妙な空気になり始めたのだが、
「いえ、トウカさんにも適正があられますよ。確かに水晶に光量は燈りませんでした。ですが、よく見て下さい」
イレーナのその発言に訝しみつつも言われた通りによーーーく見ると、なんと水晶が一回りとまでは行かなくも、大きくなっていた。
「私も数多くの方を見てきましたが、初めてですよ―――――無属性」
過去に一人だけ無属性持ちが存在していた。数世代前のシャーマンの残した書物に載せられていなければ、またイレーナが目を通していなければ気づくことがなかったであろう。
希少というなれば光属性よりもずっと希少だろう。
カードゲームで例えるならば光はHR。無属性はLRだ。勿論ゲームのコントローラーのLRでは無い。SR、SSRと間に挟んでからのレジェンドレアだ。
大枚叩いても出ないヤツだ。廃課金者かよほど運がいいか長くリセマラした者以外入手出来ないヤツだ。そんなレベルで希少なのだが……。
「何か歯に物が詰まるような感じね。で、何かしら?」
「……その、ですね……大変に珍しくもあるのですが……魔法は一つしか使えないようです。他の属性を使用出来ないとの文献がありまして…………えと……その……」
「つまりそちらの方向性では役立たずであり、むしろ足手纏いになる、ということね」
とてもいい辛そうにしていたので、桜華としては助け舟や気にしていないから大丈夫よ的な意味合いでそう言ったわけなのだが、如何せん無表情なのが相手には恥からの怒りなどの感情を押し殺しているように感じ取ってしまえて……まあ、イレーナと桜華の間にとても気まずい(イレーナのみだが)空気が流れてしまう。
だがここで先ほどから若干ぐだぐだ展開にイライラが募りに募っていた世紀末さんが、この状況を変えてくれた。
「さっきから時間の無駄ばかりだなぁオイッ!! その小娘は使いもんにならんってわかったんだから、さっさとそこの残りの適正を調べろっ!! いい加減我慢の限界ってもんだ!」
言い方には思うところがあるのだが、結果的に困ってる娘の助けになった禿さんに感謝の気持ちを砂粒ぐらい持ち、ラツィオはイレーナに先を進めるように促した。
内心で母親に感謝の言葉を紡ぎつつも、口頭で謝罪を述べてから薄気味悪いタダノに顔を向ける。
だが何故だろう? タダノがスッゴクびびって腰を抜かしそうにプルプル震えている。長い髪がふるふる連動して揺れているのがツボに入りかけ、ほとんどの人に気づかれていないが小さく笑ってしまった。
震えている原因は別にイレーナが「ああんっ?! さっさとしろよごらぁぁっ!!」と威嚇しているわけじゃあなく、何故にモヒカンじゃなくてバーコードなんだよさんがタダノを射殺さんほどの熱い眼差しを(ガンを飛ばすとも言う)向けていたからである。
どうやら初日の会議室での一件以来、タダノは殺していいなら喜んで殺す程度に嫌われた様子。桜華に対してもあまり良い印象を持っておらず、美人でスタイルがよくなければタダノと同じ扱いになっていただろう。
まあ、機会があれば味見してから部下へのお土産にしてやろうかといった考えを持たれているので、女としてはタダノと一緒の扱いだった方が良かっただろうが……。
「ヤザン殿、そう邪険にしてはそれこそ進みません。ここは広い心で成り行きを見届けていただけますか?」
「チッ」
さすが独立国家のトップなだけあり、一国の王からの申し出を自分の感情だけで撥ね退けるわけにもいかずに渋々とだが視線を逸らした。舌打ちはどうかとは思うが、世紀末さんだしなーという各トップたちは軽くスルーする。
「お待たせしました。こほん……それではタダノ様、お手を」
「……………は、はぃ……」
消え入りそうな声量でコクンと頷いたタダノは皆と同じように水晶へと手を翳す。
(わあ……手、とても綺麗……)
見た目はとても良い(顔が見えないから仕方なし)とは言えないが、その手は女性から見ても綺麗であった━━━━━━━ということはなく、素肌がとても荒れてたり爪が不均等な長さであったり、その爪には垢がたっぷりと溜まっており見た者全員が「うわぁ……ないわー……」と一歩後ずさるぐらいちょいと引く不清潔であった。
「……絶対家はゴミ屋敷だよね」
「……ああ、それにニートだろうな」
幼馴染二人が小さな声で話し合うも、謁見の間にいる兵士たちも似たような会話を交わしている。しかも止めを刺すように、
「……そのぅ……適正が一つもありませんね」
イレーナのお言葉に室内が騒めく。本当に勇者なのか、ただ崇められたいから実は密かに侵入した浮浪者なんじゃないのか、との不穏な発言が囁かれている。ラツィオやリーゼナルがすぐに騒ぎを納めようとするのだが、問題児二人が筆頭になっていることに頭痛がして二人して蟀谷を抑えため息を吐く。
もちろん問題児とは中将と独立国家のお偉いさんである。