中下
昼休み。
「転校生って、サチが、この前、見た夢と同じじゃない?今日、チョコくれたりしてね。ホワイトデーだし。ねー、サチ。」
「まさか。転校生は、偶然、偶然。ハーフでもないしね。って、今日、ホワイトデーなの?」
「えっ、サチ。今日、14日だよ。しっかりしてよー!あ、バレンタインのお返し、持ってきたよ。」
「えー。これー。」
「文句、言わないの。お返しするだけ、ありがたいと思いなさい。」
「どうも、ありがとうございます。」
「棒読み~。」
サチは、転校生の名前の【読み】が、夢に出てきた転校生の【読み】と、同じ事は、チカには、黙っていた。
「ちゃんとしたお返しが、ほしいなら、一度、バレンタインに、男の子に、本気でチョコ、渡したら?」
「へい。へい。渡したい男の子、いないもん。」
「そうですか。」
チカは、少し、呆れていた。
「夜羅君、ハーフじゃないけど、ハーフっぽいよね?私、夜羅君に、聞いてこよっ。」
「どんな風に?」
「『ハーフじゃないの?』って。」
「直球…。」
「サチは、行かないの?」
「行かない。あの人だかりみて。行かないよ。」
「もぅ。行ってくるね。」
「いってら…。」
夜羅丈治君の周囲に集まっている女の子たちの中に、チカの姿は、消えていった。
「サチ、今日も一緒に帰る?」
「うん。」
最後のLHRも終わり、帰宅部のサチとチカは、帰りの支度を始めていた。
「その、オレンジの大きい袋は、何?」
「バレンタインのお返し、貰えるかなって思って、持ってきたけど、要らなかったみたい。」
「サチがあげたのって、数人の女子だけでしょ?お返し、期待しない方がいいって。友チョコのお返しってきいたことないし。」
「そうだね。」
「帰ろうか。」
「あ、そういえば、丈治君、夜羅君ね。クオーターなんだって。だから、ちょっと、日本人の顔立ちと違うのかな?でも、丈治君って、ちょっと、格好良いよね。」
下駄箱に向かう途中、チカが言った。
「クオーターなんだ。ふーん。」
「興味なさそうだね。」
「興味ないもん。」
「あ、そう。サチって、乙女そうで、淡白なとこがあるから、よくわからないよ。」
「…チ、サチ。」
「あ、ごめん。チカ、何?」
「丈治君、呼んでるよ。」
「あ、夜羅君。何?」
「チカちゃん、ありがとう。サチさん、はい、これ、チョコ。」
サチに、渡されたのは、赤茶色の袋で、包装された箱だった。
「えっ。どうして?」
「いいから。」
「でも…。」
「夢、見たでしょ。」
丈治が、小声で囁いた。
「えっ。」
「いいから、受け取って。」
「受け取ったら。丈治君に、チョコもらえるなんて、ラッキーだよ。お返しじゃなくても。他の女の子に見つかる前に、受け取ったら?見つかったら、大変なことになるよ。きっと。」
「じゃ、ありがとう。」
サチは、オレンジの袋に、丈治からもらったチョコを、入れた。
「ありがとう、チカちゃん。受け取ってくれてありがとう、サチさん。じゃ、僕は、これで。」
丈治は、自分の下駄箱にむかった。
「きっとね、他の女の子が、今の現場見たら、サチ、妬まれるわね。丈治君のファンクラブ、出来たぐらいだし。」
「ファンクラブ…。」
「出来たのよ。ファンクラブ。でも、良かったじゃん。その、オレンジの袋、無駄にならなくて。」
「そりゃ…。チカ、このチョコ、食べない?」
「どうして?」
「いきなり、もらっても。怖いじゃん。」
「サチが、もらったんだから、サチが、食べなさい!サチ、実は、チョコ、すごく好きでしょ。」
「えっ。どうして、知ってるの?」
「顔、見てたら、わかるよ。」