中上
〈サチ、おはよっ〉
〈…あ、おはよ。チカ。え、でも…。〉
〈何?驚いた顔してんの?〉
サチは、周りを見渡した。
いつもの学校の風景。
〈サチ、サチ、先生に…〉
チカが、サチを、軽くつついた。
〈あ…。〉
サチは、着席していた。
そして、授業中で、サチは、先生に質問を当てられていた。
場面が、いつの間にか変わっていた。
あれ?
〈今日は、転校生を紹介する。夜羅ジョージ君。帰国子女で、ハーフだ。大まかな日本語は、理解できるみたいだ。みんな、よろしくな!夜羅は、明日から授業を受ける〉
〈ヤラジョージです、よろしくお願いします〉
〈ジョージ君、今日も人気だね〉
〈そうだね。〉
サチは、学校にいた。
朝のHRが終わって、1時間目が始まる前の、少しの時間。
ジョージは、顔は、整っていて、女子からは、人気だった。
ジョージの顔は整いすぎていて、サチは、苦手な顔だった。
〈サチちゃん、はい、これ、バレンタインのお返し〉
〈サチ、これ、お返し!期待通り、返したからね。〉
〈えっ。あ…、うん。〉
〈何、びっくりしてるの?今日、ホワイトデーだよ!〉
〈そっか…。ホワイトデーか。〉
〈サチ、大丈夫?なんか、最近、変よ!〉
〈あ…、大丈夫よ。〉
〈本当に?もしかして、恋煩い?〉
〈本当に、大丈夫だから。恋煩い?まさか!チカ、変なこと、言わないでよ。〉
〈サチさん!〉
下駄箱の前で、サチは、呼び止められた。
〈あ、夜羅君。〉
〈これ、どうぞ〉
ジョージが、サチに渡したものは、ピンク色の袋で、包装されたものだった。
〈何、これ?〉
〈…チョコ、ホワイトデーは、男の人が、女の人に、何か渡すイベントって、聞いたから、チョコ〉
〈いや、いや、ホワイトデーって、バレンタインの時に、チョコを渡された男の人が、今は、友チョコとかもあるかー。とにかく、バレンタインデーの時の、お返しって渡すものよ。日本では。たぶん。〉
サチは、自分で言っていて、最後は、自信がなくなって、最初より、語気が弱くなった。
〈まぁ、受け取って下さい!サチさん〉
サチが、迷っていると、周囲に、人たがりが出来ていた。
〈受け取らないのかな?あの子〉
〈受け取るでしょ!サチちゃんなら〉
〈ジョージ君、困ってる!早く、受け取れば、いいのに!私なら、即、受け取るわ〉
周りが、ざわざわとなり、サチは、受け取ることになった。
〈ありがとう。夜羅君。〉
ジョージは、チョコを渡したら、すぐに、どこかに消えていった。
〈サチ、良かったじゃん。ジョージ君に、チョコ貰って〉
〈いきなり、渡られても、困るよ。なんか、気味悪いし。〉
〈え?サチ!そんなこといって、何日か前にチョコ、渡してたじゃん〉
〈嘘!覚えがない。そもそも、あの顔、苦手何だよね。〉
〈またまた~、深層心理では、好きなんじゃないの?で、都合悪いとこは、忘れてるんじゃないの?〉
〈嘘~!そうなのかな。〉
〈絶対そうよ!それより、そのチョコ、食べてみたら?〉
〈チカ、食べない?〉
〈あんたが、貰ったから、あんたが、食べなさい!ジョージ君のチョコ、食べたい人なんて、山ほどいるんだから〉
〈はーい。家、かえって食べる。〉
私は、そのピンク色に包装されてるチョコを、学校指定ではない鞄、中身がつぶれないような鞄に、入れた。
サチは、気づいたら、自室にいた。
どうして、急に、自室に。
たまに、記憶が、飛んでいるのは、どうしてかな?
さっき?チカの言った通り、記憶が、飛んでいる箇所は、都合が悪いところなのかな。
〈あ、チョコ、食べよっ。受け取ったんだし。〉
サチは、チョコが、大好きだったのだ。
親友のチカにだって、チョコ好きだって、バレてない。
“パク”
美味しい!
サチの口に運ぶ手は、止まらなかった。
夜羅君、顔は、アレだけど、味のセンスは、いいかも。
チョコの味は、ビターで、でも、ちょっと甘くて、全体的には、渋めの味で、サチの口に、ぴったりだった。
味は、気に入ったが、包装の色は、気に入らなかった。
サチは、夜羅君のことが、気になり始めていた。
“ジジジジジ♪”
サチは、目覚まし時計の音で、目を開けた。
そして、今のが夢だと、理解した。
「チカ~、今日、変な夢、見たのよー。」
「どんな夢?」
チカは、自分の鞄を、机の上に置きながら、サチに聞いた。
「急に、ハーフの転校生がきて、その転校生が、ホワイトデーに、チョコくれるの。」
「何?それ。昨日、ホワイトデーの話し、したからかな。その転校生、男の子?」
「う、うん。」
「サチも、女の子だね。ホワイトデー、男の子に、チョコ貰いたいから、そんな夢見たんでしょ?」
「まさか。」
それから、3月14日まで、いつも通りの、楽しい日が、過ぎていった。
「おはよう。チカ。」
「おはよっ!サチ。ねぇ、ねぇ、聞いて…。」
「皆、静に。朝のHR始めるぞ。」
先生が、教室に入ってきて、チカが言うはずだった言葉の続きは、霞と消えていった。
「転校生を紹介する。夜羅丈治君だ。」
「夜羅丈治です。みなさん、よろしくお願いします。」