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5月15日付 ―プロローグ:彼の日常―

 絶対に負けられない戦いが、今、始まろうとしていた。

 うず高く積んだ城壁に、共に戦地を潜り抜けた相棒たち。準備はもうできている。

 後は、戦いの時を待つだけだ。


 俺は今まで、何度もこの戦いに挑んできた。当たっては砕け、立ち向かっては散り、でもその度にまた 立ち上がって、俺は馬鹿みたいに戦い続けた。負ったダメージは大きかったが、その戦いの中で、俺は戦い方を体で学び、日々確かな手応えを掴んでいた。

 しかし、それにも関わらず、俺は今まで勝てたことが無かった。

 相手の対策も練った、コツも掴んだ。それなのに、何故かいつも敗れてしまっていた。

 でも、今日は違う。

 今日こそは勝てる。確信があった。相手を徹底的に研究し、自分の戦法も嫌になるほど鍛えたのだ、これで勝てない訳がない。

 だから、今日こそは、絶対に――――


 ――キーンコーンカーンコーン……


 ――――戦いの合図だ。

 意識を研ぎ澄まし、目の前の戦いに集中する。

 敵は目の前、城壁の先にいた。

 敵に気付かれないよう、相棒を静かに掴む。長年使い込んできた、勝手知ったるパートナーだ。右手に伝わる2つの堅い感触に全身の血が沸き上がり、一気に俺の体を駆け抜けていく。

 ――あぁ、これだ。

 これがあるから、止められない。慣れ親しんだ心地よさに、思わず笑みがこぼれた。

 相棒の照準を合わせれば、戦いが幕を開ける。

 今日も、俺の戦いが始まる。

 さぁ、今日こそ、今日こそは、絶対に――――



「―――おい、佐古田」

「はふぃ!?」

 反射で顔を上げると、現代文の教科書を持った先生が思いっきり俺を見下ろしていた。

「えぇぇって先生!何でいつの間に横いるんすか!?」

「…授業中に弁当食うとか、良い度胸してるよな、ほんと」

 やばい、完全に無視された。

「えぇっとそれは、ちょっとお腹が空いてだっ!!って先生!角!今教科書の角来たっすよ!いくら何でも頭に角は無」

「次喋ったらうなじに背表紙な」

「うっ……」

 反論できないどころか逆に宣戦布告をされて、ただ縮こまるしかない。

 やっぱり、俺は無力だった。全く情けなくて涙が――

「てな訳でだ、さっさと弁当出せ」

「…………え?」

 弁当出せ。

 その言葉を理解するのに、軽く5秒はかかった。

「……えぇぇぇぇっ!!!無理無理無理そんなことされたら俺死んじゃぐはっ!!」

「……懲りねぇ奴だな、お前も」

「だって弁当がっ痛!」

 反論しようと首を上げた瞬間、頭の付け根から鈍い痛みがやって来る。

 その瞬間、俺は悟った。

 …これ、絶対明日も残るだろ。

「あーちなみにな、その次は教員室でボッコボコにしてから教頭先生と一緒に昼休み中説教だが―――」

「あぁぁぁぁ!出します出します!今すぐ出しますからそれだけはまじ勘弁してください!」

 流石に、これ以上のダメージとは引き換えに出来なかった。

 包み直した弁当を渡すと、先生は何食わぬ顔でそれを受け取った。そして、何事も無かったかのように授業へと戻っていった。

 その後の内容は、大きい過ぎるダメージと空腹のせいで全く聞いていなかった。ノートは城壁の材料で使ったから取り出せないし、かといってやることも無いのでひたすら窓の外の雲を数えていた。


 今までの戦歴、通算278連敗。

 これが、俺の日常だ。


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