地下茎
殺風景の景色を更に殺そうと沈黙を頑なに守り続ける幻影は父であり
残酷喜劇で上映される牽強付会の理論をぶちまける死霊は母であろう
脳漿をぶちまけて逝った妹と腹這いのまま死んだ弟の顔を思い出せぬ
開戦で喪われた恋人達の愛しさは帝王切開のような深海の藻屑になる
蜘蛛の然として逃れ逃れ帰ってきたこの街には親戚家族はもうおらず
遠くから祈りと瓦礫を間違えたような凱旋行進の音像が聞こえてくる
戦の終わりを伝える使者を撃ちぬく者の逮捕と電気椅子の乱舞を見て
四衢八街の果てに落下しうる飛び降り自殺者の寄る辺ない孤高の熱量
逢魔が時利用価値が消えた癲狂院と廃兵院の永遠に似たうねりが響き
夜になれば蛾蝶の虚しき会議たる螢火がこの街の翳りを照らしていく
非力で矮小な思い出をただ照らしていく大量生産の銃器の残骸たちよ
水生動物のように仰向けになって私小説の切れ端を朗読する孤児たち
腐れ落ちた腕を紐で括り皮肉交じりでどろりと捨てた隻腕を踏む兵士
肉体が軋み脱力の楽園へ四肢を踏み込んだ農民の性交は日本猿の踊り
対象物の代償品に対して一滴の出血もなくとも死ねば永久的なものだ
空白を埋めるように自分らしさを探してもそんなものはどこにもなく
地表に現れた地下茎の虚しさよお前はこれから枯死するしかないのか