~*~私は貴方~*~
私はあなた。
この踏みしめる土を形作る者。
あなたは私。
大地に根ざす命保つ樹。
星の上に生きる者を、包み込む大気。
その儚き生を空から見守る者。
歌をくちずさみながら、金の髪の女性がブランコに揺られていた。
薄紅のスカートの裾が靡き、その下に重ねられたペチコートのレースが覗く。
一面淡い緑の草原と、ブランコが下げられた白い木肌の星樹。
そして青と緑の混ざりあう葉からこぼれる光が彼女を彩り、美しい絵画のように見えた。
薔薇色に頬を上気させ、子供のようにブランコを漕いでいた彼女は、見つめていたエシアに気付くと、ブランコを止めて振り向いた。
「今日は私の夢へようこそ」
シュナは光をふりまくような輝く笑顔を見せた。
エシアは誘われるように彼女に近づいた。
「こんにちはシュナ様。今のは何の歌ですか?」
聞いた事が無かったので、エシアがたずねる。
「ずっと昔の聖女が歌ってたって言う、星振のことを詠ったものよ」
聖域府と関わりの深い家では、子供の遊び歌としてこれが伝わっているのだという。
「昔はわたしも、聖歌みたいなものだと思ってた。けれど、今思えば星振には祈りが込められているって歌ってるのね」
「祈り?」
「人の生を願い、守ろうとする気持ちよ。そしてエシア、こうして私達が心を通じ合わせていられるのは、エシアの力がそうなっているからよ。おそらく死の大地へあなたが落ちた時、エシア自身の星振が、星の星振と共鳴して変質したんじゃないかしら」
エシアの記憶を見たシュナは、そう感じたのだという。
星へ落ちたその時、エシアはリグリアスが幸せに生きることを願っていた。
それが星の放つ星振と響き合い、エシアが他者の星振と繋がりやすくなるよう変化させたのではないかと。
「昔の聖女も……そうだったんでしょうか」
昔、死の大地に降りたって力を得た聖女も、そうして星振の力を得たのだろうか。
エシアの疑問に、シュナがうなずく。
「星に祝福されているってことよ。だからどうか、私の分まで幸せになって」
シュナの願いにエシアは笑う。
「あたしとシュナ様はもう一つなんですよ」
目も耳も共有し、感情さえ通じ合う。もう一つの人格ぐらいの近しさで結ばれているのだ。
「ずっと一緒にいて、一緒に幸せになりましょう?」
シュナのふくれあがる感情が、滝のように押し寄せてエシアの胸に溢れた。
二人同時に、一筋の涙が頬を伝う。
その感覚に促されるように、エシアは目をさました。
目に映るのは白い聖域府の一室の天井だ。
エシアは頬をぬぐったが、その涙にぬれた指を左手で包み込む。
それはエシアの涙でありシュナの涙だから。