星へ堕ちる
基本毎日更新予定です。
今後の展開的に、酷さっぷりがマズイ感じなことを思い出しまして、
念のためR15の表示を付け足しました。
彼が叫んでいた。
空を切り裂いて飛ぶ鳥の速さに、黒髪をかき乱されながら。
乗っている青銀の巨鳥は、落ちていく彼女を追いかけて垂直に落下してくる。
その鳥の軌跡が、不意に大きく揺れた。
彼が落ちそうになったのを見て、彼女は悲鳴を上げる。
「リグリアス!」
けれどリグリアスは鳥にしがみつき、そして彼女に手を伸ばしてきた。
ただ一身に自分を目指してくるその姿に、彼女は涙があふれそうになる。
彼の向こうには白く濁った霧の海と、霞む島の姿が見える。端から崩れ始めた島からは、瓦礫や土を根で抱く木と共に、彼女以外にも沢山の人が落ちていっていた。
この世界では霧海に浮かぶ島から落ちたら、地上へ叩きつけられて死んでしまう。けれどリグリアスは、助けられる可能性を信じて彼女を追いかけてきてくれた。
それだけでもう、充分だ。
本当なら『あの女性』の傍にいるはずの彼が、自分の為に職務を放棄してくれただけで。
だから彼女は、来ないでと伝えたかった。けれど落下の恐怖で体中が萎縮していたためか、音は喉を通らない。
彼女は落ちていく方向――頭上を振り仰いだ。
目前にせまる赤褐色の大地。
そこは霧の海の下に広がる死の大地だ。
死病に冒され、樹や草といった命の痕跡は遙か昔に大地が空へ浮かんだ時に共にぬぐい去られ、錆びた鉄に覆われているかのような地肌がむき出しになっている、星の核。
彼女はもう一度リグリアスを見た。
鳥に乗った彼の方が、赤褐色の地面よりも遠くに見える。
ならば自分が先に死ぬ姿を見て、彼は諦めてくれるだろうと彼女は考えた。
ただ、一つ心残りがあるとしたら、間に合わなかったと彼が苦しむのではないかということだ。
それだけを思って、彼女はリグリアスに微笑んでみせた。