王子が婚約破棄して聖女と結婚すると言い出した
「我が婚約者よ! そなたとの婚約を破棄する!」
王城で開催されている夜会の最中、王子が婚約者の侯爵家令嬢に婚約破棄を宣言しました。
普通なら大騒ぎになるところですがここはナーロッパ世界。最近はアホな王子や貴族が婚約破棄を言い出すのにも慣れてきて、「またかー、最近多いなー」くらいにしか思われていません。なんならこの王子はアホな事で有名なので「コイツ絶対そのうち婚約破棄とか言い出すぜーw いつやるか賭けねぇ?w」とか言われてたりするくらいです。
「そんなっ! 殿下、どうして……」
おや? 婚約者の令嬢さんが驚き、悲しむように王子を見つめています。ひょっとしてこんなんでも愛していたとかなんでしょうか?
「こういうのは腕にピンク髪の令嬢ぶら下げてとかしながらやるものでしょう!? 付き合ってる女の影とか無かったから油断していました! 私の賭け金ーっ!」
違った。ただの賭けに負けた驚きと悲しみだったわ。
てか自分の婚約破棄をネタに賭けるなや。
「馬鹿を言うな。破棄するまではそなたは婚約者。他の女を連れてくるなど出来るものか。私は誠実でありたい」
いや夜会で婚約破棄とかしでかしてる時点で誠実とかないです。
その言葉を聞いていた夜会参加者の心が一つになった瞬間だった。
「……はぁ、で? どんな理由で婚約破棄なんですか? 一応言っておきますが私、イジメとかしてませんからね?」
「ん? イジメがどう関係するのだ?
まあ単に私が真実の愛に目覚めただけだ。そなたにはいっさい瑕疵はないぞ?」
「なら破棄じゃなくて話し合いで白紙にしろや」
おーい、令嬢さーん。被ってた猫が剥がれてますよー。まあ気持ちは分かりますけどね。
「げふん。失礼しました。それで? その貧乏くじを引い……もとい真実の愛とやらのお相手はどちらの御令嬢なんですか?」
隠せてない、本音が隠せてませんよ!
「ふっ、我が真実の愛の相手……それはこの国にやってきた聖女だ!」
「は?」
決めポーズを取って宣言する王子、その内容に令嬢は唖然とした声を上げます。
「「「「は?」」」」
同じく唖然とする夜会参加者達。
「…………はぁぁぁっ!?!?!?」
そして驚愕の声を上げる聖女様。
ちなみにこの夜会は聖教会の総本山から派遣されてきた聖女様の着任の歓迎と顔見せを兼ねていました。彼女が公式の場に姿を現したのは今日が初めてです。
「……あの、殿下? いつ聖女様とお知り合いに?」
「さっきだが? あの美貌に加えて優れた聖力と人望、まさに我が妻に相応しいと思わんかね?」
「「「「「思いません」」」」」
令嬢+参加者+聖女による全否定だった。
「馬鹿なっ! 何故私の妻に相応しくないと!?」
そりゃお前みたいなアホと聖女様が釣り合うワケねーだろ、と言う本音を抑え込んで令嬢が答えます。
「聖教会の聖職者は戒律で結婚や異性との性行為が出来ないからです」
「……え?」
ちなみにこの世界における覇権宗教である聖教会の聖職者の結婚禁止は子供の常識レベルです。
「……ええっと……そう! 還俗とか!」
「あ"?」
ビキィッ!っと聖女様のこめかみに青筋が浮かびます。
「殿下? それはつまり聖女の癒しと浄化の能力を聖教会管理下から王国管理下へと移したい、そういう事ですか?(^∀^#)」
「「「「ヒィッ!」」」」
聖教会の利権を侵して全力で喧嘩を売る王子の発言に笑顔でキレる聖女様。この後に起きるであろう聖教会との話し合いで王国がフルボッコになるのを予想して貴族達が悲鳴を上げます。なお外交畑の人間は悲鳴すら上げずに泡を吹いてぶっ倒れました。
「そもそも! 私は殿下、いえ貴方にさっき初めて会ったんですよ! なんで私の意思とか考えずに結婚とか出てきたんですか!」
「え、だって私王子だし、私と結婚とか嬉しくない?」
超自意識過剰でした。ちなみに顔と血筋は良いので接触機会の少なくてポンコツぶりを知らない下級貴族の令嬢からはわりとモテるのは事実です。
「あ、ちなみに私は特に嬉しくないので婚約破棄は喜んで承りまーす」
どさくさ紛れに言質を取ったのをいい事に不良債権を手放す令嬢。そのまま最婚約とか言われないように家族と共に撤退します。うわ、御両親もお兄さんも涙ながらに喜んで令嬢を祝福してますよ。よっぽど王命での婚約が不本意だったんだなぁ……
「嬉しい訳がないでしょう! だいたい私には愛する人が……」
「なにぃっ! 聖職者の結婚や性行為は禁じられているのだろう!?」
「結婚しませんし、同性なら問題ありませんが?」
「……は?」
たぶんその戒律設定した人、そういう抜け道想定してなかったんじゃないですかね……
それを聞いた王子はしばらく惚けていましたが、気を取り直したように真面目な顔になると聖女様の前で両膝をつき、額を床に擦り付けるほどに下げます。
それはそれは見事な土下座でした。
夜会参加者達は「あの王子が反省して謝罪した!?」と驚愕しています。聖女も毒気を抜かれたかのように怒りを鎮め……
「お願いします! 混 ぜ て 下 さ い」
「却下ぁぁぁーっ!」
百合の間に挟まろうとした男に神(の代理人たる聖女)の鉄槌が下された。
その後の話をしよう。
王子は聖教会との関係を悪化させかねない行動を取ったと言う事で除籍、平民落ちとなった。
元婚約者に泣きつこうとしたが普通に追い返され、王国から渡された資金も騙されて失ってしまう。
飢えて彷徨う元王子、そんな彼を救ったのは聖教会の炊き出しだった。
涙を流して麦粥をすする元王子は神の慈悲に感謝し、信仰に生きる事を誓う。
聖教会もまたそれを受け入れて修行の為に男子修道院へと彼を導くのであった……
なお、
聖教会は元王子の発言を忘れていない。
そして元王子は見た目はイケメンである。
聖教会は同性愛者の巣窟。
果たしてこの三つの事実に導かれてどんな未来が訪れるのであろうか。先の事は誰にも分からない……
「アッ────!」
分からないったら分からない(目逸らし
聖女を嫁にしようとする王子様の話を読んでたらふと「でも聖職者が結婚出来ない宗教とかもあるよなー」って思い浮かんでそのネタを思い付きのままに膨らませたらこうなった。
平常運転である。




