存在のゆらぎ
掲載日:2026/03/11
ぼくは住んでいた ここに
庭からザラザラと雨のような
線香花火の音がする一軒家
ぼくのことをしらない誰かと
よく覚えていない 名前も
姿形も なにが好きで
どこに行って どこから帰ってくるのか
誰もしらない ぼく自身を
ぼくが誰としてここに住んでいたのか
知らない土地から知らない土地へ
南から北へ 西から東
髪の毛から落ちる水滴が
吸い込まれるように
白い洗面台の上ではねる
懐かしい匂いがいつもする
水平線を見たことがある
地平線は記憶にない
夏が終わったと思えるのは
真っ赤に燃える夕焼けの雲を見たとき
汽笛を聞いてみたい
野良犬の遠吠えは悲しい
たまに雨が降って
すべての窓がしまったとき
本当の風が頭上で吹いた
ぼくは生きていた 振り返らず
どんな性格だったのか
誰に恋をしたのか
言葉を目の前の誰かに教わりながら
線香花火が地面に落ちた瞬間
夜と目があった 大きな声で
自分の名前を呼んだ
振り返ると世界が手を振っていた
ぼくはすでにいなかった




