一人称
「そういえば」
花野小路花乃はこちらを向きながら言う。
「簗型くんって、今は彼女いるの?」
なんでもないようにしているけど、少し顔の奥が紅くなっている。
多分僕に聞かれたことの意趣返しをしてるんだと思うが、やりきれずに照れている。
「そうだね。今は居ないかな」
「そうなんだ!あおちゃんとはもうなんの関係も持ってないんだ。」
「恋人じゃないからなんの関係も持っていないは飛躍している気もするが、まあ、そうだね。何の関係もないね。」
「へぇ、ぼく、別れるって言うのわかんないなぁ、あ!付き合うのもわかんないよ!けど、せっかくつきあったなら、そのままくっついていたくない?」
少し変な弁明をしながら花野小路花乃はそんな持論を語る。
「君は……ロマンチストなんだね。いいと思う。そこは君の魅力だ。」
「えー!そうなのかなぁー。」
照れ症なのか花野小路花乃は赤い顔をもっと赤くする。なんだか、いじめているつもりはないのに、いじめている気持ちになってくる。
「そうだよ。君は、こう言われるのは好むかは分かんないけど、可愛いからね。ロマンチストなのは納得がいく。」
「えー、可愛いなんて!勿体ないよぉー!」
「ふふっ」
「んんっ!ところで!」
照れ隠しなのか別の話題を振ってくる。
「話したいことがあったの。えっとね、ぼくは今僕のことを『ぼく』って言ってるけど、たまにさ、一人称が変わる人っているじゃん。それってどうしてなのかなって。」
「ほう、面白い議題じゃないか、そうだね。これは僕の憶測混じりの推論だけど。意思表明なんかが、1番強いんじゃないかな」
「いしひょうめい?」
「そう、意思表明、例えば、小学生の男子が僕から、俺に変わる時、それは大人になると言う意志を周りに表明していると考えることができる。」
「たしかに!」
「或いは、とある女の子が僕と一人称を変える。それは、なにかに影響されたのだろうが。魅力を追い求め、周りに、或いは自分に、意思表明をしたんじゃないかな。」
「あー、たしかに、ぼく、最近大人になりたくないな、ってずっっと!思ってるんだけど、そうしたら、今まで流されたり、して、たまに使ってたおれ、はどこかにきえてったなぁ。」
「それは、まだ子供でいるという意思表示と言える。」
「じゃあ、簗型くんも?」
「いや、僕は……」
僕は、下に見られやすかったからだ。中学生の頃クラスが変わったり交友関係が変わる度に一人称を変えて調べたら、僕はやっぱり幼くひ弱に見えるのだろうか、いじりがいちばん多かった。
「僕は、昔から変えたことがなかったからね。純粋に変えると言う選択肢がなかったのさ。」
「あー、たしかに!そういうこともあるよね。」
「どうしてそんな事を?」
「あぁ、最近ね。知り合いが僕だったのが俺に変わって、あの人が俺って言うの珍しーなって思って。」
「元々はどんな一人称だったんだい?」
「僕とか、俺とかを右往左往してました。でも最近はもっぱら、僕でした。」
「ふーん、じゃあ、多分なにか気持ちを切り替えたかったとかそう言ったところじゃないかな。
さっきの仮説で行くとね。それに状況を見るに、僕のパターンでも無いしね。
その人にとっては一人称を変える事が、一種のルーチンワークになっているんじゃないかな。」
「たしかに!そうだね!簗型くんって頭いいんだね!凄いやぁ」
あんまり真っ直ぐ褒められることがなかったものだから、僕は、少し顔を赤くしてしまう。
「あ」
「てれてる、ふふっ。」
彼のイタズラっぽい笑顔は僕の迂闊な心に真っ直ぐ入ってきた。
「照れてしまうね。」
「恥ずかしいんだから!ね。」
「あぁ、申し訳ないことをした。」
「「ふふっ!」」
「あぁ、もうすぐ下校時間だ。」
「そうだね、帰らないと、怒られちゃう!」
「あぁ」
そう言って僕たちは別れた。
僕は良かった今日のことを回想しながら、「いい日だったな」と無意識に呟いていた。




