ピサの斜塔
「おはよう。」
「おはよーやながたくん。」
帰ってくる挨拶
ちょっと前なら嬉しかったはずなのに紫陽花あおに挨拶をされる意味を知っている僕は逆にストレスを感じている。
「おはよ紫陽花さん。」
「ねえねえやながたくんの事やーくんって呼んでもいい?仲良くなるならあだ名って大事でしょ?」
「そういう人もいるね。たしかに。いいんじゃない?」
勝手にすれば
「うん宜しくねやーくん。」
「うん、よろしく。
そういえば紫陽花さん。」
「あーちゃん。」
「え?」
「あーちゃんって呼んで?」
はあ、
「あーちゃん最近変わったよね。気になる人でもできたの?」
「……うんそうだよー。かわいくてかっこいいいい人がねー。」
瞳孔の開き具合、間の置き方、口の開き方。
一瞬の間から動揺が感じられる。
「なんでそおおもったの?」
「雰囲気がかわってたからさ。何かいいことでもあったのかなって。」
「うん良いことはあったねー。やーくんすごいねえ、人のことよく見てるんだぁ。」
「まあね。」
このままそっけない態度をとって話しかけないようになればいいんだけど。
「おもしろーい!」
「おはよーあおちゃん。え、つむぐ君じゃーん。」
「ほんとだーねえねえ今日のテストどう?自信ある感じぃ?」
「まあ一応ね。」
「えー、思ったよりクールじゃん。」
「ねー顔も隠さなかったらいいのにー」
「たしかにー結構かわいい顔してるしーほらこうやってさー」
女は僕の髪を無断で触る。
ある程度好感度は上げた方が下げるのが簡単だからある程度仲良くするのはいいんだがこうも無遠慮に触られると嫌になったりする。
「私ゴムもってるよー。」
「あおちゃんサイコー。」
「えっへん。」
「こうしてくくって。」
「完成!ちょんまげヘアー。」
「かわいいじゃーん。」
「笑いながら言わないでくれる?あとあんまり顔はみせたくないんだけど。」
「えーいい顔してるしさあ、いいじゃん!それに私たち話したくても話せなかったんだからさー。」
話さなかったと思わないあたりに、僕はこの集団とは合わないんだと確信する。
そんなことお構いなしに、同級生は僕の髪で遊ぶ
「ツインテール!」
「ポニーテール!」
「ピサの斜塔!」
「えーあおちゃんどうやってやったのー?」
「またやったげるー。」
「やったー!」
ただ紫陽花あおは完全に遊んでいる。弄ばれるのは好きだが遊ばれるのは苦手だ。
それに女子高生の遊びは稚拙さが目立つ。
キーンコーンカーンコーン
「すわれ。授業だ。」
「はーい先生。」
「先生、そろそろ薬指の指輪のこと話してよー。」
彼岸しのがいないクラスはじめじめとした雰囲気から一変爽やかな青春が送られている。
虐めがあったころ僕を見て見ぬ振りした責任を、壊れた……僕が壊した彼岸しのに全部押し付けて。
僕もまだ稚拙だったんだ。計画にクラスの連中を入れていなかった。
そうなれば彼らが彼岸しのから加害されていた事にするのは目に見えたはずなのにソコを考えれてなかった。そこを考えれていたらもっと大掛かりな計画で快楽を享受できていたはずなのに、それを見逃していた。こんなことよりもっと、もっと、もっと!めんどくさい困難が待っていたはずなのに!
「じゃホームルーム終わるぞ。」
あの教師も使えたな。今後もし大掛かりなことするなら使うか。
キーンコーンカーンコーン
授業前の鐘の音
僕の計画は順調に進んでいる。あと一か月好感度を上る。
もしストレスがたまったら、彼岸しのとの関係を進めるのも考えている。
さあ紫陽花あお、花束つぼみ、待っていてくれると嬉しい。
君たちのとっておきの快楽をお見舞いしてあげる。
だから君たちも僕にとっておきの快楽を享受してくれよ。




