sid 花束つぼみ 「初めてのキスは蜜の味」
「あおちゃまあおちゃま!わたし可愛い?」
「うん可愛いよ。さすがつぼみ」
「えへへ〜、でしょぉ!」
私はウキウキしながら、まるでご主人様にしっぽを振るワンちゃんみたいにおめかしした服を見せていた。
「あおちゃまもとってもかわいいよぉ。」
「ふふっありがと。」
おしとやかなあおちゃまかわいい!
お小遣いをもらった子供みたいにそわそわと心が動く
「あおちゃまとデート!あおちゃまとデートっ!」
「うかれてるね。つぼみ。」
「そりゃあうかれるよぉ。あおちゃま!
だって二人っきりのデートだよ!今まではお友達の中の一人だったのが二人っきりなんだよ!」
私は早口でまくし立てる。好意が行き過ぎて口が追い付かない。
そんな私をあおちゃまはまるで聖母様のような慈悲深い目で私を見てくれる。
「ふふ、じゃあデートしよっか。」
「……うん!」
でーとデート……デートだって!きゃーっ
どうしよう。顔がぶちゃいくになっちゃう。にやにやが止まんないよぉ。
「あ、顔が紅いよつぼみ。照れちゃった?」
上目遣いで私の目をのぞき込んでくるあおちゃまと目が合う。
それがとってもかわいくてまるでお人形さんに命が宿ったようで、今にも抱きしめたくなるほどの破壊力を持っていた。
「うぅ……ずるいよぉあおちゃまぁ。」
「もっと紅くなっつぼみかわいい。」
ぷしゅーっ
使い古された擬音は多分今の私のために作られたんだと思う。
「き、今日は、えすこーとしようとおもったのにぃ」
「ごめんごめん。ついついね。」
「もぉ」
いたずらっぽくわらうあおちゃまに心がかき乱される。
「きょうは!私の行きつけのお店に行くから。」
行きつけとは.deepのことだ。水無月しあと一緒に言った最初の日から私は通いだしていた。それにあいつとのお出かけは大体がここだ。
.deepの店主さんとも話すようになった。愛想が特別いいわけでもないのに話しやすいそんな人だった。
そんな性格とカフェの相性がいいのか一人で来たときはついつい何でも喋ってしまう。
今日のデートの子とも相談したら
「なんでも伝えることって重要なのよ。あおちゃんって子は君が向けている好きの種類を知っているの?」
なんて聞かれてしまった。私が悩んでるのを察して。
「なあなあで終わらせるなら、いっそ言ってしまった方がいいときもあるの、言えないより言えた方が可愛いわよ。」
なんて言葉までもらってしまった。
だから
「そこでいっぱいお話しよ!あおちゃま!」
「わかった。そうしよっか、案内頼んでもいい?」
「もちろん!」
そうして私たちは.deepに向かった。
カランカラン
「いらっしゃい。つぼみちゃん。そのこが?」
「はい。あおちゃまです!」
「お邪魔します。」
ぺこっとお行儀よく頭を下げるあおちゃま
「うん宜しく。ここにどうぞ。
はいメニュー、つぼみちゃんはいつもので大丈夫?」
「はい!」
「ありがとうございます。つぼみいつものなんてあるんだね。かっこいい。」
「そ、そんなそんなぁ。」
店主さんがあきれ笑いをしてたような気がするが、あおちゃまがほめてくれたから、どうでもよかった。
「メニュー手作りなんだねすごくかわいい。じゃあ、このブロックコーヒーってやつもらおっかな」
「それ、いいよ、あ」
あいつもって言いかけて、口を覆った。
何で今、あいつの名前を出そうとしたんだ。今はあおちゃまとのデートなのに。
「つぼみ?だいじょうぶ?」
「う、うん大丈夫ゴメンちょっと唾が絡んじゃって、じゃあ頼んじゃうね。」
慌てて軌道修正をして私は注文をする。
「ここはいつもきてるの?」
「うん。最近友達に紹介されて。」
友達
「そうなんだあ。いいところだね。雰囲気もかわいい。」
「う、うん。とってもいいところだよ!」
「ほめてくれてありがとね。注文の商品だよ。ドリンクはおまけだ。」
「「ありがとうございます。」」
はちみつのあまいにおいとコーヒーの苦いにおいが香ってくる。
甘いシロップのかかったミルクとカフェオレのにおいも混ざり私たちに襲い掛かる。
「おいしそう!つぼみ!」
「うん」
「いただきます。」
コーヒーブロックを口に放り込むあおちゃま。ゼリーがきれいにブロック状になったそれを食べ甘いミルクで流す。その一連の行為に思わず見とれてしまった。
「ん~美味し~!つぼみこれすごくおいしい!」
「う、うんそれ美味しいよね!」
「そっちはどんな味なの?」
「これ?えっと。あじゃあ、たべる?」
「いいの?」
「うん。ほらじゃあ」
「「あーん」」
「ん~あま~い美味し~」
可愛らしく左右に体を振るあおちゃま。
「でしょ!」
まるで自分がほめられたみたいな表情で私はどや顔をしていた。
店主さんのあきれた笑い声がまた聞こえたような気がした。
そうして食べ物を堪能してゆっくりして、ミルクが三分の一無くなった時。
私は意を決したように口を開く。
「あ、あおちゃま!」
「どうしたのつぼみ。」
「あのね、その、」
「うん。」
「わたしね。初めてあったときからずっと。優しいあおちゃまがね。その……」
「うん。」
優しい口調であおちゃまが相槌を打ってくれる。
「それでね」
「あおちゃまのことがす……」
「す?」
「すきなの! れ、恋愛的ない、意味で」
「―え?」
やばいやばいやばい
引かれた引かれた
ぜったい……
「ほ、ほんと?」
「本当です。ゴメン急にそんな事言ったら引かれちゃうよね……」
ワタワタごにょごにょとみっともなく手で顔を覆い隠す。惨めに言い訳をする。
「つぼみ。」
優しい声。
そこで、やっとあおちゃまの顔を見れた。
あおちゃまの顔は、
「照れてる?」
真っ赤だった。
「……だって。びっくりしちゃって。」
「そうだよね。」
ただびっくりしただけ、か、って勝手に落胆してしまった。
「だって、好きな人から告白されちゃうなんて思わなかったから。」
―え
え、え?
好きな人?、私が?
「私もあなたが好き。」
「あなたに、惹かれちゃった。」
「ほ、本当!?ほんとのほんと?」
「ほんとのほんと。」
や、やったーーーーーーーーー!
伝えてみるものなんだ。やっぱり。相談してよかった!
あおちゃまの言葉に舞い踊るさなか、ふと、店主さんを見る。優しい笑みを浮かべながらウィンクをしてくれた。
こうして私の世紀の大告白は成功した。
カランカラン
お会計を済ませて私たちは、外に出る。
「おいしかったね。」
「うん。」
お互いが意識をして、じれったい空気が広がる。
「あの、つぼみ」
「な、なに?あおちゃま。」
「ちゅ、チューしよ?」
「チュー!?」
「嫌?」
「嫌じゃないです!
むしろ嬉しいです!」
「ありがと。じゃあ目瞑って。」
ん?
こんなやり取り前にもやったことがある気が、
あ
「「ちゅ」」
水無月しあだ。
フラッシュバック。首につけたチョーカーを触ってしまう。
あおちゃまと、キスをしたとき思い浮かべていたのは水無月しあの顔だった。
目を開ける。
「きゃ」っとかわいく反応するカノジョ、それを横目に私はどんどん青ざめてしまう。
悟られないように顔を見せないようにする。
「……すごいよかったよ。」
「えーなにそれぇ?、ふふっ」
気持ち悪い。
「あ、家こっちだから」
気持ち悪い。
「あ、送っていこうか?」
気持ち悪い。
「いや、今日は大丈夫。」
気持ち悪い。
「そう?じゃあ、またね。」
気持ち悪い。
「またね。」
家まで走る。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
「おぇ…うえぇ…」
せっかくのあおちゃまとのファーストキスをあいつの顔で消費してしてしまったこと。あいつを思い浮かべながらあおちゃまと過ごしてしまったこと。逃げるように帰ったこと。あおちゃまとの食事をはいてしまったこと。
全部に嫌気がさす。
口の中にやけに甘いはちみつが香る。
思い浮かぶ景色は水無月しあのほうだった。
ファーストキスの覚えている味は口の上をすべる蜂蜜の味だった。
「……クッソが……」




