直さない理由
やれやれ。まだ、直していないらしい。
散歩中、そのアパートの前を通りがかった俺は、いつも通り、溜息を吐いた。
立ち止まり、改めてその箇所を観察する。
直していないというのは、網戸のことだ。他人の家だ。そんな些細なことは気にしないのが吉だろうが……この家はしょっちゅう、窓も開いてるのだ。
そしてそれは、今もだった。……不用心すぎる。
ここは一階で、しかも住人は、若い女だ。
実は俺は、女とは面識がある。彼女はいつも俺に、馴れ馴れしく話し掛けてくるのだ。
俺は再び溜息を吐き、窓に手を掛けた。
鍵は掛けられないが、せめて、窓だけでも閉めておいてやろう。
……しかし重いな。
俺は声を上げ、窓に掛けた手に渾身の力を込めて──。
「よーし。ゲット! もう逃がさないよ~!」
頭上から声が降ってきたと同時に、体を抱えられた。
見ると、この部屋の住人の女だった。
女は俺を抱えたまま、ぴしゃりと窓を閉め、ついでに鍵も掛けた。
しまった。逃げられない。
女の腕の中でもがいてると、こそばゆさが襲ってきた。
女は俺の頭や、背中を撫でている。
こら、やめろ。くすぐったいし、……少し気持ちいいじゃないか。
「全く、こんなに痩せちゃって。ろくに食べてないんでしょ。……網戸を破いたり、窓を開けてたりして、キミが入って来るのを待ってたんだよ? もう、放さないから。今日からキミは、ウチの子だよ」
女はそう言うと俺に頬ずりをし、にっこりと笑った。
なるほど、網戸や窓は俺のためだったのか。
……そこまでされては、仕方がない。
これからは、この女の世話になるとするか。
俺は了承した、という意味を込め、女に向かってにゃあ、と鳴いた。




