おせっかい
「はい、いらっしゃい! 大きいのを一つですか? それとも普通のを二つですか?」
声を掛けられた俺は返事をしながら、客をこっそりと観察した。
海の家で浮き輪業も営んでいる身としては、客の素性を推察するのも、娯楽のひとつなのだ。何しろ海のそばでは、ネット環境にも乏しいことだし。
客は二人。互いに何となく距離のある、若い男女。
恐らく付き合い始めの、学生カップルだろう。
ただの予想だが、当たっているはずだ。
何しろこちらは日に何度もカップル客の相手をしながら、何年も働いているのだし。
案の定、カップルは赤くなりながら普通のを二つ、と言ってきた。
やれやれ。もったいないことだ。
二人で使える浮き輪を選べば、距離が縮まるだろうに。
俺はふと思い立ち、それじゃあ準備しますから、と言って、浮き輪の用意を始めた。
「じゃあ、楽しんで下さいね」
俺はカップルそれぞれに浮き輪を渡し、ひらひらと手を振った。カップルは浮き輪を持って、海の中に入って行く。
俺はそれを目で追いながら、そのときが訪れるのを待った。
やがてカップルの片割れ、女のほうの様子がおかしくなる。焦っているようだ。それはそうだろう。
何しろ俺自ら、途中で空気が抜けるよう、浮き輪のひとつに細工をしていたのだから。
様子を見ていると男のほうが彼女に近づき、その手を取って、二人で男の浮き輪に掴まり始めた。
それを見て俺は、心の中でガッツポーズをする。
これであの二人の距離も、少しは縮まっただろう。
何しろ、ネット環境にも事欠く仕事だ。
たまにはキューピッドのようなおせっかいも、娯楽のひとつになるのさ。




