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出遭い(3)

「じゃ、じゃあ、僕たちがここに来たのは、神様のせいなの……?」

「ああ?たりめぇだろ」

 苅田は何を当たり前なことを言ってやがる、と言わんばかりの顔をしていた。

「この社の周りを見ろ。お前達が来た衝撃で辺りの枝が何本か落ちてやがる。動物が巣を作るにゃかっこうの枝だってのに、この辺りは動物の気配が全くない。それは本能的に畏れているからだろうな、神の力を」

 その言葉を聞いて楽は考え込み、ゆっくりと言葉を吐き出した。

「ここに、僕たちを連れてきた神様を探し出せれば帰れるの?」

 帰れる、という言葉に咲も反応して苅田の顔を見た。

「さあな。俺も俺をこの世界に連れてきた神には会えてない。もしかしたら帰れるかも知れねぇし、見つけ出したって帰れねぇかもしれねぇ」

「……苅田さんはずっと、自分を連れてきた神様を探してるの?」

「ああ?まぁ探してはいる。が、神を探す、というよりは人の世界への帰り方を探してるな。実際、何年探しても明確な帰り方は見つかってねぇよ」

 何年、という言葉に二人は衝撃を受けた。苅田という大人が何年もここで帰り方を探してもわからないのだ。自分たち子どもが数日で帰り方を見つけるなんて不可能だったのだ、と。

「そんな、何年も探して、それでも帰り方がわからないなんて……」

「まぁそういうわけだ。お前らはお前らで勝手にやれ。もうこの神社には用はねえ」

 苅田は一通り見て回って満足したのか二人を置いてどこかへ行こうとしていた。


「待って!」


 声を出したのは楽だった。

「ああ?」

「僕たち何にもわからないんです!どこに食べ物があるのかとか、どうやってここで暮らせばいいのかとか、他の人とか神様のこと、何にもわからないんです。だから、一緒にいさせてくださいっ!」

 楽は苅田へ頭を下げていた。

「っは、知るかよ。俺はお前等みたいなお荷物を抱える気はねぇよ」

 苅田は意にも返さずに立ち去ろうとしたが、再び足が止まった。苅田のズボンを今度は咲が掴んでいた。

「何もわからないんだよっ、昨日から水しか飲んでないっ。家もないし、頼れる人もいない!このままじゃ、あっという間に死んじゃうんだ!!」

「じゃあ勝手に死んどけよ。ここは神の国、法律も何もない。俺がお前等を見殺しにしても咎められることは一切ない」

「嫌だっ!死にたくない!!」

「じゃあ勝手に生きろ」

「俺たちだけじゃ、生きていくのは難しいっ」

「じゃあどうしろって?」

「俺たちが生きていくために助けてほしい」

 咲はまっすぐに苅田の目を見て言った。

「俺たちに、ここでどうやって生きればいいか教えて」

「お前等にここでの生き方を教えて俺に何の得がある?ああ?」

 苅田は咲の手が離れていない状態で無理やり歩き出そうと足を動かす。

「……じゃあ、教えてくれなくて、いい。学ぶ。苅田さんの、生活を見て、自分で勝手に学んでいく。だから、一緒に連れて行ってよ!」

「ガキ二人が見て学ぶってか。そんなこと言って、すぐに俺に助けを求めるのは目に見えてる。俺には何もメリットがない。むしろ迷惑だ、邪魔だ。さっさとどけ」

 苅田は一切二人を相手にしなかった。

「何でもするっ」

 ひと際大きな声で咲は苅田へ呼びかけた。

「何でもするっ!苅田さんがやれって言えば何でもする。悪いことも面倒なことも、俺が代わりにやるっ!だから、俺たちを一緒に連れて行って!!」

 苅田が咲を見ると、咲は半泣きの状態で必死に縋っていた。

「っは、こんな非力なガキが何でもするって言ったってたかが知れてる。失せろ」

 今度こそ苅田は咲を足から引きはがし、地面へ投げた。

「う、っうぅ」

「咲くん!」

 楽が咲へ駆け寄ろうとした瞬間だった。咲は苅田めがけて一直線に走り出した。

「えっ!?」

 楽が困惑している間に咲は苅田の背中へ飛びつき、苅田の首へ噛みついた。思い切り噛みついた首からは徐々に血が滲み始めた。

「っつ、クソガキっ!!」

 苅田は思い切り咲を掴み地面へ投げつけた。

「っは、ぁあっ」

 地面に叩きつけられた咲は一瞬息が止まり、のたうち回った。

「この、クソガキが」

 苅田は今までの比ではないほどの形相で咲を睨み、思い切り咲を蹴り飛ばす。

「っう、っぶぅう」

 蹴り飛ばした咲に近づき、今度は胸倉を掴んだ。そしてそのまま顔面を殴り飛ばした。

「っぐ、っひ、ぅう、っは」

 咲の顔は痛みと恐怖で涙が止まらなかった。声も上げられないほどだった。

「痛ぇだろ?怖ぇだろ?いい加減わかっただろ?さっさとどっかいけ、クソガキ」

 苅田は今度こそ、咲の目を見て睨むように言った。

「や、やだ……、一緒に……、絶対に、一緒に、行くっ」

 それでも咲は諦めていなかった。殴られた際に出てきた鼻血を拭い、懸命に前を見た。睨むように、鬼気迫るように。


()にだぐ、ないっ」


 ここで苅田を逃せば自分たちは二人とも数日で行き倒れると本能が告げていたのだ。

「チッ」

 苅田は再びイラついたように咲の顔を見た苅田は、少し怪訝な顔をした。

「……おい」

 今までとは少し違う声音だった。そのまま苅田は咲に近づき、胸倉を掴むとまじまじと咲の顔を観察していた。その様子に咲も震えて見ていた楽も困惑する。

「おい、口開けろ」

「……え?」

 ぽかん、とした咲を無視し、苅田は咲の口内へ自身の指を突っ込み、無理やり開かせた。

「う、うぅ、っう……」

「咲くん!」

「うるせぇ、事と次第によっちゃ一緒に連れて行ってやるから大人しくしとけ」

 その言葉に咲も楽も大きく目を見開いた。

 苅田は咲の口内をまじまじと観察し、次いで自分が殴った顔や腹を観察した。

「……いいぜ、お前等一緒に連れて行ってやる」

 一通り満足したのか、苅田は咲を解放するとそう言った。さきほどまでの言葉が嘘のようにあっさりと同行を許可された。

「え……」

「ほんとに……?」

 展開がわからず、どうして苅田の気が変わったのかもわからず二人は呆気に取られていた。

「おい、クソガキ」

 苅田はしゃがみ、咲に向かって呼びかけた。

「お前は面白そうだ。だから俺の傍で生きることを許してやる。さっきの言葉、忘れてねぇだろうな。―――何でもするんだろう?」

「うん、何でもする。俺は楽と生きるために、何でもする」

 殴られ、ぼろぼろの顔で、それでも決意だけは確かに咲の目はまっすぐに苅田を見つめていた。もう鼻血は止まっていた。

「いいだろう、契約成立だ」

 苅田は口角が上がっていた。

「意外とこりゃ、良い拾い物したかもな……。使いようにもよるが、あいつはレアもんだ」

 苅田のクツクツとした笑い声が鳴った。

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