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出遭い

 鷲咲と金剛楽はひとまず周辺を調べることにした。何にしろ、この世界で生きていかなければならないからだ。生きていくにはまずは食べ物の確保だ。

 二人は探検ごっこをしていた。何でもいいから気を紛らわせたかったのだ。

「隊長!こちら異常なしでありますっ」

「そうか!ご苦労、金剛隊員!」

「隊長、僕はあそこの草むらが怪しいと思うでありますっ」

「では見てきてくれたまえ」

「イエッサー」

 楽は敬礼ポーズを取り、丁度いい枝を片手に草むらを進んでいく。咲は楽の後ろ姿を注視した。

 ガサガサ、と草木を掻き分ける音が少し離れ、また近くなる。

「……何の成果も!!得られませんでした!!」

 某漫画の一コマを彷彿とさせる動作をしながら、残念そうに咲へ報告した。

「残念でありますっ」

「そうか、私もとても残念であるっ。だが諦めずに探していくでありますっ」

「イエッサーッ」

 二人は散策を進めたが、何も成果がなく、日が傾いてきた。

 ぎゅるるる……。

 どちらともなく空腹を主張している。また、お互いに口にしないが、昨日に引き続き長距離を歩いた子どもの脚はどちらも悲鳴を上げていた。途方に暮れかけていた時、楽の目に何かが映った。

「咲くん、あれ……」

 楽の目線を負えば、ちらちらと白い何かが見えた。動いているようだった。

「あれって」

 鼻をひくひくさせ、大きな耳が隠せていない。真っ白な兎が目の前にいた。

「「うさぎっっ!!」」

 空腹と戦いながら必死で兎を追った二人はどんどん足を進めた。

「あっちにいるかもしれない!もう少し進んでみよう!」

 楽は咲の手を取り、原っぱを進む。昨夜の祭りの跡のようなものがあったが、灯篭は火が灯らず、あれだけ派手に飾られていた提灯もなくなっていた。石垣のようなものはちらほらあるが、家があるわけではなかった。原っぱをさらに進むと、再び森のよう空間が広がっていた。

「……楽、流石にこれ以上はやめておこう。帰り道がわからなくなりそう」

「……でも、僕お腹減った。喉も乾いたよ」

「俺だって……」

 丸一日飲まず食わず、さらに兎と鬼ごっこをした二人はもう限界だった。座り込み、途方にくれていた。途方にくれて、歩くことも止めていた。座り込んでいた。

 二人が動かず、声も発さなくなると、無音になった。

 ―――ぴちゃん

「……あれ」

 咲は何か物音がしたような気がして耳を澄ませた。

「どうしたの、咲くん」

「静かにして」

 楽は言い返す気力も湧かず、言われた通りに黙った。

「なぁ、この音って水の音じゃないか」

「え?」

 楽も耳を澄ますが、何も聞こえなかった。聞こえたのは風の音だけである。

「何も聞こえないよ?」

「いや、聞こえるよ。たぶん、こっち……!」

 咲は楽を立たせて音のする方向へ歩き始めた。数分歩いた頃だろうか。ようやく楽の耳にも水音が聞こえ始めた。

「ほんとだ!水の音が聞こえる!すごい!!」

 飲まず食わずだったため、喉も渇ききっていた。そのため、水があると思うと自然と口角が上がった。

「なっ!」

 咲もまた笑顔で答えた。二人は夢中で歩くと、数本の木々に隠されるように小さな滝つぼがあった。小さいといっても子どもの二人からすればとても大きいものだった。

「瀧だっ……」

「すごい……」

 二人はまたこの世界の景色に圧倒されていたが、すぐに滝つぼの水に目が向いた。

 滝つぼの水は綺麗な透明で、湧き水のようだった。そのため、二人はごくり、と喉を鳴らし、まるで顔を水につけるかのように勢いよく水を飲み込んだ。ごくごく、と喉を鳴らしながら必死に水を口に含み飲んでいた。

「美味しい!」

「すげ!俺、水が美味しいって初めて思った!」

「僕も!」

 水をたらふく飲み、満足した二人は滝つぼの近くで寝転がった。

「……すごい。上見てみろよ」

 咲に促され、楽が空を見上げれば、満点の星空だった。

「すごい」

 昨晩の祭りの景色も、朝方の地平線が見えるかのような景色も、今目の前にある星空も、全てが美しく、現実離れしたもののようだった。

「僕こんなにたくさん星見たの初めて」

「俺も」

「こんなに見えるんだね」

「な。家に帰ったら星の事調べてみようかな」

「僕もそうしようかな。こんなに綺麗なんだもん」

 二人は隣合って寝転がり、星空を見上げながら眠っていた。疲れと、ひと段落した安心、そして滝の音を初めとした自然の音。子どもが寝かしつけられるには十分だった。



「……おい」


 二人が寝落ちてから何時間経っただろうか。咲は微かに何か聞こえた気がして薄目を開けた。

「おい、ガキども。起きろ、お前等どこから来た?」

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