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高天原へようこそ

「……ら……く……らく」

「う、んぅ……?」

「楽、楽、起きろって、楽っ!」

 楽は咲の呼びかけにより、目を覚ました。

「あれ、なんで咲くんが僕の家にいるの?」

「は?何言ってるんだよ、まだ俺たちは家に帰ってないよ。それどころか気づいたら……」

 咲に促され、楽も周りをよく見れば、見たことのない光景が広がっていた。場所は確かに神社だった。同じ神社のように見えたが、それ以外が全て違っていた。都会にはない草木や土の匂い、民家一つ見当たらない山の中。そして、眼下に見えるおどろおどろしい光景は、祭りのように騒がしく、燃えるように、ゆらめいていた。

「なに、これ。ここどこ……?」

「わかんない。俺も起きたばっかりで」

 二人は茫然と目の前の景色を見つめていた。

 咲は楽の手を強く握った。

「俺、ちょっと様子見てくる。すぐに大人を見つけて、助けてくれって言ってくるよ。だから楽はここで待ってて」

 咲は無理に笑いかけ、立ち上がろうとするが、それは拒まれた。

「い、嫌だ」

 咲は楽からの意外な返答に目を丸くした。

「僕も一緒に行きたい」

「で、でも、危ないかもだしっ……!」

 咲の精一杯の虚勢が剥がれ、急に涙目になった。

「こんな、こんなところで、一人にしないで……!」

 楽がぎゅっと咲の手を強く握った。強く握られたその手は赤ん坊が無意識に手を握る時のそれに似ていた。

「……うん、ごめん」

「うん」

 二人は手を繋いで灯りを頼りに歩き始めた。

 山道は暗く、石やくぼみに引っかかり転びそうになる。少しずつ、子どもの足で、灯りを目指して歩き続けた。どれほど歩いたかわからないほど歩き、慣れない山道に、足の裏が悲鳴を上げ始めた頃だった。

「あ、この音」

 楽が耳を澄ませば、聞こえてきたのは鳥居の中から聞こえた祭囃子だった。笛や太鼓の音、笑い声や歌声が一緒くたに聞こえてくる。神社では不気味だったこの声も、今となっては希望の声だ。

「もう少しだ!」

 二人の気持ちは『早く家に帰りたい』ただそれだけだった。


 ―――だが、飛び出したはずの二人は、咄嗟に物陰に隠れていた。


 布切れのようなものを纏った者、綺麗な着物で着飾った者、雲に乗り宙を浮いている者。ましてや、兎や猫が人の言葉を話し、輪の中に入っている。目の前のすべてが今まで生きてきた自分達の常識とは違っていた。

 息を潜めていると、急に大きな歓声が聞こえた。

 ハッとしたように歓声がした方を見れば、空色、天晴色の髪を靡かせた、思わず目を奪われるような女性が観衆の前に立っていた。

「みんな楽しんでる~?」

 髪色が映える、レモン色の柄が入った着物を身にまとい、周りの灯りを一身に浴びた彼女はまさに太陽のように煌めいていた。

「今日も今日とてイイ女のステージ、見逃そうったってそうはいかないんだから。全員目玉(めんたま)かっぴらいて観なさいよ。そして―――最高に盛り上げてっ!」

 彼女はそう言うと舞い始めた。とても綺麗で、思わず身体が動きそうになってしまうような、楽しい舞いを披露していた。咲と楽もその全てが理解出来ずとも見惚れていた。

「いよっ!アメちゃん流石!」

「もっと踊れ!舞え!」

「お酌してくれ~~」

 彼女はアメちゃんと呼ばれているようだった。そこら中から歓声や下卑た野次が飛んでいる。酒の肴に、最高の催しなのだろう。

「この私にお酌を頼もうなんて、二千年は早いわよ~」

 そう言うと彼女は男に向かってウインクをして見せた。

「アメちゃん最高~~!」

 男は見事ノックアウトされ、酒が勢いよく進んでいた。

 咲はアメちゃんと呼ばれる女性と目が合った。その瞬間に彼女は人好きのする笑顔で楽へ投げキッスを飛ばしていた。

「今の、咲くんに向けてるように見えたね」

「……うん、俺もそう思った」

 周りの空気に飲まれていた。だから、近づいてきていた人物に気が付かなかった。


「おやおやおや、これは珍しい。人の子じゃないか。しかもこんなに小さな人の子は久しぶりだ」

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