08. 再見
2021年4月6日
駅から成高までの道は坂道だ。
2時間電車に揺られて、さらに、結構な坂を登らなければいけない。
「おはよ。」
途中、カノンに声をかけられた。
高く結んだ髪が頭の後ろで揺れている。
「おはよー。」
私は、少し息切れしながら答えた。
「今日の部活見学、どこ見る予定?私は軽音行くよ。」
「歴史探究部ってとこ見てみようかなって思ってる。」
「へー、歴史好きなんだ?」
「うん、まあ。」
いや、特別歴史が好き、というわけではない。
それならなぜ歴探を選んだのか、と聞かれても、特に浮かぶ理由もない。
部活見学でたまたま見て、雰囲気が気に入ったから入った、そんなところだ。
「あ、こんにちはー。」
久しぶりの部室を前にして、飛び出しそうな心臓を抑えながら扉を開けた私を出迎えたのは、高橋一世先輩。
「せっかく見学来てくれたとこ悪いんだけど、今日の作業めっちゃ地味なことしかしなくて、あんま楽しくないかも...。」
瞬きする度に、キリンのように長いまつ毛が大きく揺れる。
私は部室をさっと見渡した。
クソでかいテレビ、小汚いロッカー、窓から見えるグラウンド。
見慣れた風景に、私は少し、安心感を覚えた。
「見学に来てくれた人に地味だの楽しくないだのと言っちゃあいけないよ、一世くん。慎ましやかで落ち着いていると言いたまえ。」
深倉龍馬先輩が、薬指で眼鏡をクイクイしながら、一世先輩の後ろから出てきた。
「言い換えとか別にいいから。
とりあえず今してる作業の説明でもしようか。」
「今やってるのは、史料の写真撮影と封筒詰め。
史料っていうのは...。」
私は、すでに知っていることでも、少し大袈裟に反応しながら聞いた。
作業の説明を終え、部活の主な活動内容などを聞いてから、私は、他に話題がなくなった先輩方と適当に話していた。
「三富さん、意外と話しやすいな。
あ、見た目の雰囲気とかじゃなくて。
歴史に興味ある人って、結構自分の世界が確立しててさ、話しにくい人も多いんだよ。だから珍しいタイプだなーって。」
「あ、どうも。」
「一世くんみたいなタラシ野郎も珍しいけどね。」
「うるせえ!」
「...いけずだね。」
「...。」
...穏やかだ。
やっぱり、この雰囲気が私には合うな。
私は、教室にキラキラと舞っている埃を眺めながら思った。
「やっぱ歴探が好きなんだよォーッ。」