07. 初演
2021年6月18日
「沢山練習したし、大丈夫...。」
「萌音さんは歌上手いからいけるよ。
俺は譜が飛んでベース投げるかもしんないけど。」
「俺、ドラム以外あんま分かんないけど、みんなすごく上手だと思うし、いっぱい頑張って練習したから、大丈夫だよ。」
「わー、ありがとうございます。」
ライブを前に緊張している私たちを、先輩が励ましてくれた。
ドラムを希望する1年生が足りず、穴埋めでバンドに入ってくれた先輩。
私は先輩の優しさに胸を打たれた。
「皆さん、今日は来てくれてありがとうございまーす!
1年生の初ライブ、ぜひ楽しんでいってください!」
今日はついに、ライブ当日。
ステージの設営も昨日無事に終わり、残すは練習の成果を披露するのみとなった。
出演順は、最初に先輩バンドが幾つか出て、途中1年生を挟み、トリの先輩バンドで終わる。
1年生の順番はくじで決まった。
「こんにちは。Really Alone Guysです。
私たちが演奏するのは...。」
くじで1番を引いたのは、菜乃ちゃんたちのバンドだ。
カノンが入念に準備したMCをしてから演奏が始まった。
初めてのステージで緊張して、棒立ちでギターをガン見しながら弾く菜乃ちゃんに、私は心の中の応援団と一緒にエールを送った。
「ありがとうございましたー。」
龍さんがドラムスティックを落としたこと以外は特に問題なく終わった。
出番が少しずつ近づいてくることを感じ、私の心臓は小躍りし始めた。
「ドリームマジカル☆レボリューションでーす。
見ての通り、1年生で唯一のボーイズバンドです。
えーまあ、僕たち、こうして壇上に立ったからにはですね、精一杯、お客さんを楽しませなければなりません。」
次のバンドは、なかれんの絶妙に面白くないMCから始まった。
出番が迫った私たちはステージ真横のドアから覗き見ていた。
おにぎりがギターをこちょこちょ触りながら、呆れた顔をしてなかれんを見つめている。
丸い図体のボーカルとギターに対して、リズム隊は普通サイズだ。
MC中は特に目立たなかった八木上光貴が、演奏が始まった途端、それまでと打って変わって視界の邪魔になるほどに動き出した。
ステージ中を歩き回ってベースを弾く姿は、とても初ライブには見えない。
「こーきー!ファンサしてー!」
ステージの下手側に集まっている人たちが、手を大きく振りながら叫んだ。
八木上は、見た目は至って普通なのに、変な...愉快な仲間たちに囲まれている。
ある程度親しくなると分かることだが、彼自身もかなりおかしな人であるため、類が友を呼んでいるだけなのだ。
「次、出番、頑張ってね。」
緊張で放心状態になっていた私に、小さくガッツポーズをしながら声をかけたのは、さっきまでなかれんの後ろでドラムを叩いていた無坂高広。
「わあ、あ、ありがと。」
彼は、努力家で、とても真面目な性格。ときどき、天然でかわいい一面も垣間見える。
部活の中でも少し話しただけの私に、わざわざ応援の言葉をかけてくれるなんて、本当に良い人だ。
いつの間にか、彼らの演奏は終わっていたようだ。
萌音ちゃんたちが手招きして私を呼んでいる。
私は深呼吸して、ステージへ登った。