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05. 初会

 2021年6月5日


 6月に入って初めての雨だ。

 昨日までは気持ちの良い快晴だったのに。

 今日は打って変わって、今まで溜め込んでいた水分を全て出し切ろうという意志すら感じるほどの、大雨だ。

 雷も、いつ校舎に落ちてもおかしくないほどの近さでバキバキ鳴っている。


「この天気だと、さすがに練習するの怖いね。」


 みんなが楽器の準備をし始めたとき、1人の先輩が言った。


「今日はみんなで雑談でもしようか。他のパートの子も誘ってさ。」

「あー、いいね。練習してて雷でも落ちたら怖いし、ね。」


 そう言って先輩たちがこちらを向いたので、私と菜乃ちゃん、おにぎりは頷いた。


「私、VINEの全体グループで言っとくよ。

 えーと、落雷があったら危ないので、今日はとりあえず視聴覚室で雑談会しませんか、っと。」


 先輩のVINEが送られてからしばらくして、私たちはパートごとの練習室から、視聴覚室へ移動した。

 視聴覚室は、全体で集まるときに使う部室であり、校内でライブをするときにも使われる。

 特に指示があったわけではないが、なんとなく、私たちはバンドごとに分かれて座ることになった。


「曲の進捗どう?前回みんなで合わせてからちょっと経ったけど。」

 最初に話を切り出したのは、ボーカルの栄福えいふく萌音もね

 今日もいつも通り、メイクもヘアスタイルもバッチリだ。

 この沈黙から話を振るとは、さすが萌音ちゃん、プロい。


「俺はもう大体できたよ。さあ、このカードを覚えて。」

 ベースの久保くぼ和也かずなりが、さっきまでシャッフルしていたトランプの束の、一番上のカードを見せながら答えた。


「スペードの6。覚えた。ゆうゆうは練習の調子どう?」

「あー、ちょっと怪しいとこもあるけど、まあ順調っちゃ順調かなぁ。」


 久保ちゃんは私たちが覚えたカードを束の真ん中あたりに差し込み、大きな手でシャッフルした。


「みんな大丈夫そうね。ドラムの先輩は向こうで話してるから分からないけど。」

「そーだね。でも前回ちょっとしか聞いてないけど、なんか上手そうだったからいいんじゃね?」


 私はドラムの上手い下手はあまり分からないが、適当に答えた。


「パラリラパラリラ。」


 久保ちゃんがトランプに向かって唱えた。

 指を鳴らして、一番上のカードを捲る。


「おぉ!」

「わー、スペードの6だ。」


 私は感心した。こんなに大きな体で、こんなに繊細な所業を為すとは。


「えー、久保ちゃん、もっかいやって、もっかい。」

 中町なかまちれんが、シンバルを持った猿のおもちゃのように手を叩いて言った。

 赤メガネに天パで、女みたいな名前をした男。

 すげぇ秋葉原のオタクみたいなやつ。

 おにぎりのバンドのボーカルだ。


「なかれん、猿みたいな動きやめろ。」

「急になんだよ、ゆうゆう。」


 きもす。

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