04. 再興
2021年4月6日
また過去に戻ってしまった。
3度目の入学式も終わった次の日。
まだ人気のない学校に着いた私は、すでに席に着いていた三好くんに挨拶した。
私はもう一度世界観のトーク画面を探したが、見つけることができなかった。
"正しいルートを進まなければ、このループからは抜け出せない。"
私は、何度も、この言葉を反芻した。
あれはなんだったのだろうか。
正しいルートって何?
またタイムスリップしたってことは、少なくとも、友達の少ないあの未来は正しいルートとは違うってことだよね?
じゃあ、また友達がたくさんできるようにすればいいのかな。
私は、自分の机に彫られたハートの落書きをなぞりながら考え込んだ。
あんまり何回もなぞるので、指の先が赤くなってヒリヒリしてきた。
とりあえず、何かしらの部活には入ったほうが良さそうだな。
さて、なんの部活に入るか...。
元の人生では、軽音の友達が多くいた。
彼らもまた、それぞれの知り合いと私を繋いでくれる、重要な人物たちだ。
軽音に入れば、同じように彼らと仲良くなれるのではないか、と考えた私は、部活見学の時間、カノンと軽音楽部へ向かった。
そして、私は軽音の入部届をその日のうちに出した。
軽音に入部してから、ちょうど1週間。
今日から本格的に部活が始まる。
私は初めてのことに胸を躍らせながら、ギターの練習室のガタガタと音を立てる扉を開けた。
練習室といっても、机と椅子と黒板が揃った普通の教室と、何も変わらない。
「こんにちはー。」
一斉に10つの目がこちらを向いた。
先輩3人と同級生2人。
そのうちの1人は、菜乃ちゃんだ。
1人の先輩が立ち上がって、言った。
「こんにちは!
全員集まったし、まず私たちから自己紹介するね!」
私が席に着くと、先輩たちの自己紹介が始まった。
バンドと担当パートは、昨日全員で集まって決定した。
バンドは、カノンとも菜乃ちゃんとも離れてしまったが、同じギターパートとしてなのちゃんと話す機会はある。
元の人生とは違う関係だけど、またみんなと仲良くなることができるだろう。
「じゃあ次は、1年生、自己紹介していきましょうか!
えーと、右から順に、お願いします。」
「はい。えー、1年d組、箸持幸盛、120kgです。
趣味は焼きおにぎり、好きなアーティストはメロ活シニアです。」
彼は、私の周りでは"おにぎり"と呼ばれていた。
特に頭がいいわけでもキャパが大きいわけでもないのに、人々から、彼のお腹の肉よりもぶ厚い信頼を寄せられていた。
「この巨体を生かしたオリジナルの技法で、ギターを奏でたいと思います。よろしくお願いします。」
「あ、えっと、1年g組の安寿菜乃です。
えっと、趣味は手芸で、好きなアーティストは冷製ハムカツです。...よろしくお願いします。」
この頃の菜乃ちゃんを私は初めて見る。
私が出会った頃は、ツインテールがトレードマークだった。
でもこの頃はまだ、肩につかないボブヘアだ。
次は私の番だ。
私はゆっくりと椅子から立ち上がった。
「1年f組の三富優和です。
趣味はゲーセンのクレーンゲームで遊ぶこと、音楽はなんでも聴きます。
ギター初心者ですが、精一杯頑張ります。よろしくお願いします。」
「1年生のみなさんありがとうございます。
こちらこそよろしくお願いします!」
部室や機材など諸々の説明を終え、各々、自分の練習に移った。
本人から聞いていた通り、入学当初の菜乃ちゃんは驚くほど静かだ。
こちらから話しかけても、喜んでるのか嫌がってるのかよくわからない。
でも、一度仲良くなれたのだから、2度目なんて楽勝でしょ!
そう思って、菜乃ちゃんにもおにぎりにも積極的に話しかけた。
出身中学、家族構成、好きな食べ物...。
何度も聞いた話だが、私は初めて聞いたふりをして聞き続けた。
「ゆうゆうちゃん、そろそろお昼食べよ。」
「いいよー、おにぎりも誘おうか。」
「うん。」
入部から1ヶ月が経ち、努力した甲斐あって、休日の部活の日は、菜乃ちゃんとお昼を食べるようになった。
ときどき、おにぎりや他の部員も混ざって食べている。
私は、別室でバンドメンバーと合わせて練習しているおにぎりを呼びに行った。
「おにぎりー。お昼食べるぞ。」
「たまには俺以外の男子も誘えよ。この巨体でちっこい女子2人と食べるの気まずいんだって。」
「ふっ。いいから行くよ。菜乃ちゃん待ってるから。」
おにぎりはウニョウニョ言いながらギターを片付けてお弁当を持ってきた。
「いい調子じゃんッ!この人生、なかなか たのシーサー!!」