03. 再考
2026年3月3日
駅に着き、カノンとカフェに入った私は、メニューを見ながら考えた。
あの時、私は氣流を避けるため、歴探の部活見学には行かないことを決意して眠った。
今、その未来で、私はカノンと2人で誕生日に出かけている。
...あの3人は?
私は急いでVINEの友達一覧を見た。
いない。
菜乃ちゃんも友莉ちゃんもおーばも。
ていうか友達自体がめちゃくちゃ少ない。
なんで...?
歴探に入らないだけでそんなに変わる......?
「ねぇ、変なこと聞くけどさ、私って高校の時なんの部活入ってたっけ?」
「え?何言ってんの。
何も入ってなかったでしょ。
帰宅部のエースって誇ってたじゃん。」
カノンは、出来立てのパンケーキにシロップを掛けながら、不思議そうな顔でこちらを見ている。
...そうか!
あの決意によって未来が変わったんだ!
部活で知り合った友達も、そこから繋がった友達も、みんな関係が消えてしまったのだろう。
でも、それにしてもこの友達の減少は異常だ。
菜乃ちゃんや他の軽音の人たちをカノンが紹介してくれるはずでは?
「そういえば、カノン、同じ部活の菜乃ちゃんと仲良かったよね?
今でも連絡してるの?」
「たまにしてるけど...。あれ?
ゆうゆう、菜乃ちゃんと接点あったっけ?」
「いや、えっと、あんまりなかったけど...。
あ、ほら、3年でクラス一緒だったから。」
それまでも仲が良かった菜乃ちゃんは、3年で同じクラスになってから一層親交が深まったのだ。
「ええ?なんか勘違いしてるんじゃない?
菜乃ちゃんはゆうゆうとクラス違ったよ?」
...どういうことだ?
頭に"?"が3つ並んだ私は、戸惑いながらも会話を続けた。
「あれ?そうだっけ?
じゃあ、他の軽音メンバーとも連絡してる?」
「うーん、人によるかな。てか、なんで急に?
ゆうゆう、軽音で私以外に親しい人あんまいないよね?
毎日HR終わってすぐ帰るから、クラスの人でもあんまり関わってなかったでしょ。」
...なるほど。
菜乃ちゃんとクラスが違ったっていうのはよく分からないけど、おそらく、部活に入らないで特に学校に残ってすることもなかった私は、帰宅部のエースとして毎日即帰宅していたのだ。
そして、唯一知り合えたカノン以外と、ほとんど関わることなく卒業したのだろう。
「いや、なんとなく気になってさー。」
「ふうん?」
彼女は、微妙に納得しない表情で、パンケーキに乗っているもうだいぶ溶けてしまったアイスを掬った。
高校生の頃は高く括ってポニーテールにしていた髪も、今はだいぶ短くなった。
しかし、食べるには結ばないと長い。
髪が、残り少ないパンケーキに付きそうになったが、ギリギリで気がついて免れたようだ。
友達は減ってしまったけど、あの選択によって変わったこの未来なら、私と氣流の関係も当然変わっているはず。
あの後、私は氣流に会わずに済んだかな。
トラウマを体験せずに、済んだのかな...。
私はスマホの画面に目を落とし、友達の一覧を見返した。
そして、"世界観"という名前のアカウントを見つけた。
私は興味本位で世界観とのトーク画面を開いた。
"正しいルートを進まなければ、このループからは抜け出せない。"
なんだこれ。何かのいたずら?
私は画面を閉じようとした。
そのとき、急に画面が明るく光り出し、私は思わず目を瞑った。
光が治るのを感じ目を開けると、そこは、成高の入学式だった。
「あはっあはっ。また戻っちゃった......。」