02. 再往
2021年4月5日
「新入生、退場。」
私はふらつく足で体育館から教室に戻った。
見覚えのある鞄が掛けてある席に座り、頭を整理するため今の状況をスマホのメモに書き出した。
あの時、百均で氣流に会って、私は気絶した。
目が覚めると5年前の成高の入学式に戻っていた。
後ろの席の三好くんも、担任の勢馬池和湖も、この微妙な制服も、全部当時と同じだ。
なぜ5年前に戻ってしまったのか?
これが俗に言うタイムスリップなのか?
それとも、これは気絶したまま見ている、ただの悪い夢?
いくら考えても答えが分かるはずもなく、とりあえず、私は自分の頬をつねってみた。
いてぇ。
つねっても叩いても殴っても、私の頬は赤くなり痛みを訴える。
ということは、これは夢じゃなく現実...?
そうだとして、どうやって私は過去に戻ったの?
また未来に戻ることはできるの?
だんだんと不安になってきた。
だめだ。思考がネガティブな方に傾いている。
落ち着いて考えよう。
私は胸に手を当て、深く息を吐いた。
時間も場所も違うとはいえ、周りは知っている人ばかりじゃないか。
それに、この時点では、氣流はまだ私のことを知らない。また気絶する心配もない。
そうだ。
せっかく過去に戻ったのだから、今までと違うことをしよう。
まずは、当時入部した歴史探究部に関わるのをやめよう。
そうすれば氣流にも関わることはないし、あのトラウマをもう一度体験することもない。
そう思い立ち、私は明日の部活見学で歴探に行かないことに決めた。
「ねね、私、石外歌音っていうんだけど、連絡先交換しない?」
HRもおわり、そそくさと帰ろうとした私を呼び止めたのは、高校で一番最初に友達になったカノンだった。
高校最初の1年間、私は主に、彼女と行動を共にする。
面倒見が良く、みんなに頼られる彼女に、私は幾度も助けられた。
カノンはこの後、軽音学部に入部する。
そして、菜乃ちゃんを含む、軽音の仲間を私に紹介してくれたことで、友達が増えるきっかけになる。
私の人生において重要な人物だ。
「いいよ!私、三富優和。よろしくね!」
無事にカノンとVINEの交換をした私は、家に帰ってベッドに横たわった。
今日は1日がとてつもなく長く感じた。
明日からまた高校生活が始まるのか。
せっかくの2度目の人生だ。絶対氣流のトラウマから逃げ切ってみせる...。
少しずつ意識が遠のき、私は眠りについた。
「...うゆう。ゆうゆう!」
揺さぶられる感覚で目が覚めた。
なんだ、カノンか。
「そろそろ終点だよ。起きて、ゆうゆう。」
「あぁ、分かった。」
昨日はあのまま寝ちゃったのかな。どれくらい寝てたんだろう。
私は眠い目を擦りながら、手元のスマホで時刻を確認した。
2026年3月3日
10:26
10時か。結構寝たなぁ。
そう呑気に思ったのも束の間、私はスマホの画面を二度見した。
2026年?!
「カノン!今って西暦何年何月何日?!」
「急にどした。今日は2026年3月3日だよ。
ゆうゆうの誕生日祝うために、こうして2人で出かけてるんじゃん。」
うそ!またタイムスリップしちゃったの?!
しかも未来に!
そうだ、私、ベッドで寝たはずなのに...。
目の前に見えるのは天井じゃなくて、電気で動く箱にぎゅうぎゅうに詰め込まれた、人の壁だ。
本当に、未来に戻ったんだ。
私は、あまりの衝撃に瞬きすることを忘れてしまった。
一睡しただけでもう5年後?