10. 再転
2025年10月23日
「ゆうゆう氏、そろそろお昼食べるっすよぉ。
購買行きましょ〜。」
「うん、行こう。」
私は、左右にひょろひょろと揺れながら歩く夢慈那と購買へ向かった。
重負乱大学は初めて来た。少し探検をするような気分だ。
窓から真っ赤に紅葉した大きな木が見える。
施設も綺麗に掃除されてるし、偏差値以外は、まあまあ良いじゃん?
構内の広さには驚かされたが、それに対して購買はとても狭い。
品数も多くはなく、何か買いに来ている人も少ない。
元の人生では、大学で購買に行くのが日々の楽しみだった。
根田椎大の購買はとても広かった。
そこで"かまぼこサブレ"が、私を毎日待っているのだ。
普段は自宅から自転車で30分かかるコンビニで買い溜めをしているが、大学生になったら、大学でそれが買えたのだ。
一応言っておくが、30分自転車を漕がないとコンビニがないわけではない。
スーパーやコンビニでも一部の店舗でしか取り扱っていない、とてつもなく入手困難なお菓子なのだ。
もちろん、大学では買い溜めをできるほどの量は売っていないので、大学生になってもコンビニには通っていた。
私は、毎週30分自転車を漕いでも苦にならないほど、かまぼこサブレが大好きだ。
ピンクと白の可愛らしい見た目と、素朴な甘さとかまぼこの香りが絶妙にマッチしたその味に、見事に虜になった。
「今日の日替わり弁当はなんだろなぁ〜。
あれ、ゆうゆう氏〜?」
購買に着いてから、私は一目散に、かまぼこサブレを探した。
隅から隅まで探し回った。
そして、とうとう気づいてしまった。
「え、まじ。
この大学、かまぼこサブレ売ってないの?」
「あぁ、そっすねぇ。
宮城の大学で取り扱ってるのは、根田椎大だけっすねぇ。
夢慈那、それ聞いたときめっちゃショック受けたからぁ、よおく覚えてるっすよ〜。」
私は一気に体の力が抜けてしまった。
「ゆうゆう氏もあれ好きなんすかぁ?さすがソウルメイトっすねぇ!」
「う、うん。」
かまぼこサブレが食べられないなら、大学に通う意味がない。
「あれ、ゆうゆう?」
…この声、聞き覚えがある。
私は慌てて振り向いた。
「な、なかれん...?え、なんでこんなとこいるの?」
何が起きているんだ?
彼が通うはずの大学は、ここまで底辺の大学ではないはずなのに。
「なんでって、授業受けてお昼になったからご飯買いに来たんだよ。なんだその顔は。」
私は気持ちの整理がつかず、顔中の筋肉が緩むのを感じた。
彼は、私と同様、受験に失敗したのだろう。
理由はたぶん、私が歴探に入らなかったことで、なかれんと歴探を繋ぐものがなくなったからだ。
「そんじゃ、俺もう行くから。またな。」
私の選択が、誰かの人生をこんなにも変える可能性があるんだ。
なかれん...。あんなに大学を楽しんでいたのに。
...まあ、そんなことはどうでもいい。
今、何よりも重要なのは、かまぼこサブレが重負乱大学には無いということだ。
私は今まで、歴探に入部したことを何度も後悔した。
でも、結果的には実績を作って、根田椎大に入学することができたし、歴探で過ごした日々も悪いことばかりではなかったのだ。
部活のみんなと遠征に行ったり、文化祭の準備をしたり、夏には海で手持ち花火をしたり。
仲間との大切な思い出がたくさんある。
「あれ、大丈夫っすか?ゆうゆう氏ぃ。」
あの氣流さえいなければ...。
心臓の鼓動が速くなり、私は意識が遠くなっていくのを感じた。
「新入生、退場。」
気がつくと、私はまた、成高の入学式に戻っていた。
またか。
4度目の人生...。
1度目は氣流に会って失神、2度目は友達が消え、3度目は成功に見えたけど、まさかのかまぼこサブレとの別れが。
もう、何かを失うのは嫌だ。
...今度こそ、絶対楽しい人生にしよう!




