01. 再会
2026年3月3日
今日、私こと三富優和は20歳になった。
20年...。
長かったような、あっという間だったような気もする。
20年っていうと、新卒で入社した人が役付きになってるくらいかな?
夫婦だったら磁器婚式か。
そんなことを考えながら、私は駅へ向かって歩いていた。
「おはようみんなー。お待たせ。」
「おはよう、ゆうゆうちゃん!」
3人の女子が私を迎えた。
彼女達は、私の高校時代からの友達だ。
「今日、寒いねぇ。服装間違えたー。」
安寿菜乃が高い声を震わせながら言った。
ヘアアレンジからギターソロ、そして小さなぬいぐるみ制作まで幅広く活躍する、魔法の指先を持っている人物。
体育祭や文化祭などで大活躍だったその指先も、今はただ震えるのみ。
「カイロとか持ってないの?」
私がそう言うと、彼女は鞄の中を探し始めた。
そして、3束しかないような前髪から、八の字に曲がった眉を覗かせた。
「ない。ハンカチすらなかった。」
「うーん...。
あ!私、持ってたよ、あげる。はい。」
「わーい、友莉ちゃんありがと!」
使い捨てカイロを差し出した岩塚友莉に、菜乃ちゃんは満面の笑みを向けて言った。
友莉ちゃんは細い親指を立てて、ニコッとした。
鍋焼きうどんのような温かい心を持ち、私たち3人を、唯一の常識人として冷静に見守ってくれる存在だ。
「もう1個あるけど、ゆうゆうちゃんかおーばちゃんいる?」
「私は大丈夫。」
「私も。ありがとね。」
長いつけまつ毛をふわふわ揺らして答えたのは、凰羽姫奈。
おもろいけど時々くどい。あと歌がうますぎる。
小さい体からよくあの声量が出るなと毎度感心する。しかも美声。
おーばが続けて言った。
「ゆうゆう、カラオケの予約、何時だっけ。」
「えーっと、14時だから、30分後くらい。」
「おっけー。カラオケ行くの久しぶりだなぁ。」
私はこの20年で、たくさんの場所に行って、たくさんの人に出会った。
いろんな思い出があるけれど、やっぱり一番に思い出すのは、3年間の高校生活。
今でも時々母校を訪ねるが、会う人達も風景も、すっかり当時と変わってしまった。
大学にも慣れて、バイト先もホワイトで毎日充実している。
でも、今の私には何かが足りない。
私は今でも、あの頃に囚われているような気がする。
高校を卒業してから、ずっとその思いは拭えないままでいる。
ふと、私はウェットティッシュを買いたかったことを思い出した。
「ねえ、カラオケ行く前に百均寄りたいんだけどいい?」
「いいよー。」
私たちはぞろぞろと並んで歩き始めた。
百均もカラオケも、駅から歩いてすぐのところにある。
駅から外に出た途端、強く冷たい風が私たちに向かって吹いた。
「風、強ぉ!」
「寒いとテンション上がるよね!今めっちゃ楽しい。」
「どういうことだ。」
「おーばちゃんときどき変なこと言う。」
セミロングのストレートヘアを嬉しそうになびかせているおーばを見て、髪を両手で抑えながら友莉ちゃんが言った。
菜乃ちゃんが笑う声も、風に飛ばされていった。
百均は、いつもより少しばかり混んでいた。
それぞれが見たいコーナーに別れ、私はウェットティッシュを探した。
買うものが決まり、レジの方に向かって商品棚の迷路を歩いていた。
そのときだった。
目の前に、1人の中年男性が飛び出してきたのだ。
私は息が止まりそうだった。いや、止まっていた。
彼は、私が高校で入っていた部活の顧問だ。
彼と出会ったことは、私の高校3年間の唯一の汚点である。
「氣流...改正......。」
視界がだんだん緑色になってぐるぐると回り始め、私はついに、気絶してしまった。
私の母校である成長高校、通称成高は、宮城県の郊外にある、校舎も制服も偏差値も平凡な、よくある田舎の学校だ。
先生たちは放任主義だし、クラスの陽キャも東京のギャルに比べればかわいいもんだった。
私は毎日、電車で2時間かけて登校していた。
宮城にも高校は数多とある。
好きなおでんの具が違うように、高校の選び方も、人それぞれ違う。
友達と同じ学校を選ぶ人もいれば、将来を見据えて選ぶ人もいる。
そんな中で、誰かに頼らず、自分一人で新しい私の世界を作りたい、そう考えた私は、知り合いの1人もいない成長高校に通うことに決めた。
今思えば、これも運命だったのかもしれない。
私は、成高で幾人もの気の合う友達ができた。
自慢じゃないが、私は交流関係が広い方だと思う。
部活やクラスが同じ人から、その友達の友達まで、沢山の人と仲良くなった。
その中でも、高校3年生のときに親しくなった3人とは、卒業後もよく集まって、カラオケに行ったり食事をしたりしている。
今日も4人で集まって、私の誕生日会をするはずだった。
「そろそろ起きたほうがいいですよ。」
誰かの声で、私は意識を取り戻した。
あれからどれほどの時間が経ったのだろう。
そう思いながら目を開けると、そこには成高の制服を着た男の子がいた。
「わあ!誰?!」
「あ、出席番号後ろの三好です。さすがにそろそろ起こしたほうがいいかと思って。
もうじき式、終わりますし。」
「シキ...?って何?」
「何って入学式ですよ。成長高校の。大丈夫ですか?」
成高の入学式......?
私はバレないように、こっそりスマホで日付を確認した。
そこに書かれた数字に、私は目を見張った。
2021年4月5日
「タイムスリップしちゃった...ってコト!?」