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中ボスと魔法の練習



 次の階層は、薄暗く、ひんやりとした空気が漂っている。時折、ピューッと吹く風が、不気味な気配を漂わせる。


「…ここを進むんですか?」

「一本道みたいだしね。怖かったら、ほら」


 シリウスが手を差し出すと、ルナは迷わずその手を握った。


「この先には、何があるんでしょう?」

「何だろうね。宝でも眠ってるのかな」

「なんだかシリウスは楽しそうですね」

「それはもちろん。道が分かれてたり、どんな生物がいるのか、古い文献が残ってたり…考えるだけでワクワクするよ。ルナは?」

「私は少しこわ……」


 ピチョン…ッ


「キャアッ!!」

「……水の音? 暗くてよく見えないな。光を灯そう」


 シリウスが指を鳴らすと、フッと光の球が現れ、奥の道を照らし出す。


「水たまり……。お水が落ちた音だったんですね。よかった……」

「うーん、それはどうかな?」

「え?」

「見てて」


 シリウスは水たまりに向かって小石を軽く蹴り飛ばした。すると──


 バッ!


 水溜まりが動きだし、石が飲み込まれてしまった。


「スライム?!」

「正確にはヌメリオン。スライムより少し強くて、服を溶かしたりするんだ」

「……えっ、それは、なんだか……エッチ…です」


 ルナは、複雑そうな顔をする。


「………もう一回言って」

「……はぃ???」


 突然のリクエストに固まるルナ。


「そんなこと言うルナ、珍しい」

「なっ……! どうしてそんなキラキラした目で見るんですか!? ヤダッ!おかしい!シリウスの変態!!」

「男はみんな、だいたい変態だよ」

「やぁ!!真顔で言わないでっ!! …もうっ!こっちが恥ずかしくなっちゃう!」


 真っ赤な顔を両手で覆い、小さくしゃがみ込むルナ。


「あ、いつものルナだ」


 そんな様子も可愛いと思うシリウスだったが――


 ギギギー…、カタカタカタ…


「ああ、やっぱりもう一体いたか」

「え?」

「スケルトンだ」

「キャアアッ!」


 ルナの悲鳴が響くその瞬間、シリウスが音もなく動いた。刹那、ヌメリオンの軟体が砕け、スケルトンが音を立てて崩れ落ちる。


「もう平気だよ」

「や、やっぱりって…、どうして、わかってたんですか?」

「ヌメリオンは服を溶かすくらいしかできないから。防御力を低下させて、もう一体が攻撃してくるパターンが多いんだ」

「そういう、ことだったんですね……」


(ちゃんと意味があったんだ)


 考えなしに、エッチとか言ってしまった自分が恥ずかしい。


「あ、でも、一部では特殊な娯楽の道具として使われることもあって、捕獲依頼が出ることもあるんだ。だから、ルナの感想もあながち間違いじゃないよ」

「ひゃっ…!そ、それは別に教えてくれなくても…いいです!」


 ルナは思わずシリウスの後ろに隠れてしまう。


「ルナ?」

「も、もう!早く先に進みましょう!」


 背中を軽く押され、シリウスは苦笑しながら歩き出す。しかし、後ろに隠れたままのルナは、顔を俯かせていても耳が真っ赤に染まっているのが分かった。


(恥ずかしがらなくても…でもそこが可愛いんだけど)


 ルナの様子に微笑みつつ、シリウスは彼女の手を軽く引いたのだった。





 厳かな扉を開くと、そこは大きく開けた空間が広がっていた。奥には古い石碑が静かに佇んでいる。


「ここは…行き止まりでしょうか?」

「そろそろ、ボスが出てもいい頃なんだけど」

「え!」

「とりあえず石碑を見てみよう。……古代文字か。これは読めそうだな、…えーっと…」


 シリウスは一文字ずつ紐解くように読み進める。もし彼が帝国に残っていれば、侯爵の地位や魔塔を築くような偉大な存在になっていたかもしれない。ルナは、自分の存在が、彼にとって足枷になっているのではないかと感じ、胸がチクリと痛んだ。


「…世界の調律、…神…いや、神々…?使徒、光の子…」

「光の子…?」

「世界の干渉者、命の導き手。破壊と再生を司り、…その使命は重責。祝福の力は記憶、知識…」


 かつてシリウスの師である大賢者は、ルナには魔力とは異なる「祝福の力」が宿っており、それが古い文献に記された神の使徒「光の子」に由来するものではないかと語っていた。


 魔力暴走の際、ルナとシリウスの命を繋ぎ止めたのは、二人の心臓に架けられた「祝福の光の糸」の力だった。そして、神の聖域の泉を目指す理由も、「光の子」との深い関わりがあると推測されるからだった。


「使命…」

「とりあえず、一度持ち帰ろう。先生にも知らせておいた方がいいな」 


 ルナは胸にざわめく不安を押し隠しながら、小さく頷いた。その時だった。冷たい風がひゅうっと流れ込み、辺りの空気が凍りつくような感覚に包まれる。


「……ゆ、幽霊っ!!!」

「あれはデスリーパーだ。闇属性の魔物が多かったから、ボスもそうかと思ったけど、初心者ダンジョンにしてはちょっと場違いかな」

「え、え?!それはどういうことですか!?」

「中級ダンジョンに出てくるようなボスなんだ」

「えええ――!!!」


 シリウスはまるで動物園の動物を指差すように和やかな説明をする。しかし、目の前にいるのは、大釜を持った死神のような物騒な魔物だ。全く、全然、可愛くない!


「ルナはここにいて」

「…は、はい」


 シリウスが指先を軽く動かすと、ルナの足元に結界が鮮やかに浮かび上がる。そして、視線はデスリーパーの方へと傾けられた。


光属性の者(ルナ)に有利なダンジョン、そして『光の子』の石碑…ここまで順調すぎると、逆に引っかかるな…)


 シリウスは消えては現れるデスリーパーに狙いを定め、まるで奈落の底から無数の龍が這い出るかのような漆黒の呪縛で縛り上げた。そう、これはあのゴミ虫ゴリラ男を縛った時の応用技だった。


「あ、そうだ、ルナ!せっかくだから、ここで魔法の練習をしてみよう!」


 ポンっと手を叩き、まるで名案かのように提案する。


「えっ!今、ボ、ボス戦、…です、よね?」

「大丈夫、大丈夫。ルナでも一瞬で倒せるから。さっき覚えた魔法、あれが使えると思うんだ」

「シャインのことですか?でも、あれは灯りの代わりで、攻撃魔法には向いてないと思うんですけど」

「それでいいんだ。一緒にやってみよう」


(ボス戦なのに、魔法の練習って。本当にいいのかな?)


「はい、杖を構えて。手から杖の先端に魔力を移していこうね」

「ええっと、はい」

『グォオオ!!グガアア!!』

「キャッ!!!!」

「お前は少し黙ってろ。ルナが怯えるだろう?」


 敵を叱るシリウスの冷徹な態度を横目に、ルナはその温度差に、むしろシリウスの方が怖いと感じて、思わず身を震わせそうになっていた。


「さぁ、気を取り直して始めるよ。魔法は想像…、朝日をイメージしてみようか」

「は、はいっ」


(朝日…、眩しい、光)


「綺麗な光だ。じゃあ、そのまま目潰しさせよう。それとも焦がして消滅させようか」

「え、め、目潰し?」


 物騒な提案に、デスリーパーの方が危機感を感じたのか、強烈な疾風を放って抵抗する。しかし、結界魔法の加護で吹き荒れる風はただのそよ風程度。その間に、シリウスはルナの手を支え、杖の揺れをしっかりと安定させた。


「その調子だ。さぁ、焦らずに」

「…も、もう少し…」


 光が灯るまで、あとわずか三秒。


 だが、ここでデスリーパーの次のターンが先に来てしまう。さらに強力な風魔法が襲いかかるが、所詮それも扇風機の『強』くらいの威力。優勢は揺るがない状況に見えたのだが…。


ビリ、ビリビリビリッ――!!!


 突然、ルナの服が破れ、その下から異常に防御力が高い魅惑のベビードールが姿を現す!


「えっ!…えっ?!…キャアアア――――ッ!!」


 ルナは驚きと恥ずかしさで、しばらく動けずに固まってしまう。同じくシリウスもそのあられも無い姿に目を奪われ、思わず意識が吹っ飛び、デスリーパーをうっかり瞬殺してしまう。


「ルナ、だいじょう…ぶ…?」


「うぅ…、大丈…、きゃぁっ、やっぱり大丈夫じゃ、ない…です」


 ルナは恥ずかしさで顔を真っ赤にして縮こまっていた。



「…これは、いろいろとマズイな…」

「…ふぇ?」


 「理性がもたない…」と小さくつぶやくか否や、シリウスはすぐにマントでルナを隠し、慌てて宿屋の自室直行の転送魔法を発動させた。



【宿屋にて】



「ごめんっ!服の耐久値、考慮するの忘れてた。もう一回、買い直そう!いや、最強のものにしよう!」

「それだと、あの防具屋ではこのベビードールが最強なんですけど」

「……えっ!!」


 シリウスは、色々考えた末、防具屋で可愛くて防御力が高く、耐久性も強化されたローブを(ガチガチに改造した)をもう一度買い直したのだった。



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