ダンジョン攻略を開始する
ーー中央広場、女神像前
眠り眼を擦りながら待ち合わせ場所に着いたニーナは、シャルティの姿を探していた。
「ダメだ。飽きてきた」
女神像の周りにある池が朝日に照らされキラキラと輝く中、ニーナは見つかんないやと小言をいいながら肩掛けの小さなカバンを開け、紙とペンを取り出す。
「えっとなになに? 見つからなかったから帰って寝る……。じゃなあぁぁい! いるここに!」
「なんだ、いたのか……」
意気揚々と置き手紙を書いていたニーナに大声で怒鳴るシャルティは、昨日の普段着とは変わって、短剣の刺さった皮のベルトに白いマントも羽織っていた。
そんな背後から現れたシャルティに、行くならさっさと行こ。と目を瞑りながら呟くニーナ。
もうニーナの心はお金より睡眠が勝ち始めていたのだ。
「よし! じゃあ行こ! ニーナさんは何もしなくていいから!」
「ん、わかった。おんぶ宜しく」
歩きたくない。と駄々を捏ねるニーナに、おまかせを! と軽々しくおぶるシャルティ。
流石戦士だねと無駄の無い腕の筋肉を触りながら、やるねと笑みを浮かべたニーナはぎゅっと目を細める。
「ねぇシャルティ。この服眩しすぎて寝れない。今すぐ服脱いで」
「マントだけならいいよ!?」
マントもインナーも真っ白なシャルティの体は、神々しい太陽の反射のせいで最早発光体になっていたーー
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ーー西のダンジョン
今回の試練として選ばれたのは都市の西側にあるダンジョン。
数多の冒険者が攻略しているため、マップも完成済み。手順をしっかり追えば何の難しいものは一つも無い、初心者用のダンジョンだ。
「よし! 着いたよ!」
「ん、ほんとだ……」
背中から降ろされたニーナは、あぁここねと欠伸をしながら入口に近づく。
森の中にポツンとあるその岩肌のダンジョンは、ニーナの見知ったダンジョンだった。
「……ねぇシャルティ。その試験の合格ってどうやって証明するの?」
「それはもちろん! ボスのドロップアイテムを先生に見せることだよ! あ、安心して! 私が1人で倒すから!」
「なるほどね……」
ボスの攻略方法は散々勉強してきたんだー! と目を輝かせるシャルティをよそ目に、ニーナはシャルティの背後にある木々を眺めながらため息をついた。
「まぁ、シャルティにまかせるって決めたしね、ちゃんと付いてくよ」
「うんうんまかせて! それじゃあ早速入ろ!」
先頭を行くシャルティのマントから白い光がこぼれ落ちるのを見ながら、面倒くさいことになりそうだなぁと呟いたニーナは、後ろを再度振り返り、ザワザワと動く木々を再び睨みつけたーー
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ーー1階層
全3階層で出来ているこのダンジョンは、特に難しいギミックもなく簡単に攻略をすることが可能だ。
「うわぁ、初めてダンジョンに来たけど、やっぱり教科書で見るのとはなんか違うね……! 本物って感じだ」
「まぁ本物だからね……」
本当に大丈夫かコイツと目を細めるニーナは、周りを見渡しシャルティに声をかける。
「ねぇシャルティ、早速ゴブリンがこっち見てるけど大丈夫?」
「え! どこどこ!」
1階層最初の広間に着いた2人は、左右にある他の部屋に続く道を見ながら、ヤバいもう挟まれてる! と両サイドのモンスターを見入る。
「それじゃ、後はよろしくシャルティ。私は朝ごはん食べるから」
「え、今!? ま、まぁいいけどねっ!!!」
『ギガガァァァ!!』
のんびり座りながらサンドイッチを頬張るニーナを横目に、勢いよく飛びかかってきたゴブリンのお腹目掛けて短剣を突き刺すシャルティ。
これくらい余裕! ともう一体のゴブリンと一気に距離を詰め、短剣を左目に突き刺す。
『ギガガァァァァァァッ!』
「はぁぁぁっ!」
そのまま力いっぱい剣を突き刺され、頭を貫通したゴブリンは断末魔と共に、黒いオーブとなって消えていった。
「おお、やるね。さすが戦士」
「ふっふーん! 私、やる時はちゃんとやる女の子だから!」
そう言ってダブルピースを見せるシャルティに、サンドイッチをもぐもぐ食べるニーナは、これなら大丈夫かなとサンドイッチを飲み込み、言葉を続ける。
「そうだシャルティ、昨日聞き忘れてたんだけどステータスカードって持ってないの? 学校に通ってるならもうあるんじゃない?」
「え……! ま、まぁ、あるには、ありますけど!?」
あからさまな動揺を見せるシャルティは、やっぱり聞かれたかぁと汗をダラダラ流す。
ステータスカードーー
それは普通、冒険者登録をしてから貰う物なのだが、魔法学校や戦士学校など、特定の学校に通うものは入学時に与えられるのだ。
「なんだよ、見せてよ」
「……は、はい」
そんなごにょごにょするシャルティの手から渡されたステータスカードには、こう書かれていたーー
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シャルティ・クライン
Lv1
力・1
耐久・1
器用・1
技量・1
敏捷・1
魔力・12
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「え……。何このステータス……。ってかシャルティまさか…………」
「はい! ステータス更新してません! すみませんでしたっ!!」
「……………………」
違法だったーー
この世界のステータス管理は特に厳しく、常に更新をし続けなければならない。遅くても1週間以内の更新を義務付けられているのだが、シャルティには更新をする手段がなかったのだ。
「だ、だってぇ! 魔法使いの友達いないし! 先生にそれがバレるの恥ずかしくて頼めなかったし! こうするしか無かったんだもん!」
「…………惨いな」
ステータス更新に必要なものはたった一つ。
『魔法』である。
これは世界で魔法が発達し始めた頃の初期の魔法。人のステータスを数値化することが出来るというものだ。
カード自体の発行には許可が必要だが、更新自体は誰がやってもいい事となっている。
「ごめんねシャルティ。私が更新してあげれれば良かったんだけど……」
「え! いいよいいよ! 私が悪いし!」
さすがになんか申し訳ないと頭を下げたニーナは、もちろんそんな魔法すら使えないのである。
「よ、よーし! じゃ、張り切って探索続けよ~!」
「…………」
お互いの傷に塩を塗った2人は、2階層へと続く階段を目指すーー
「なんで、魔力だけちょっと高かったんだろ」
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ステータス更新の魔法は人間にしか使えません。
ニーナの過去は超絶大切なので過去話が出るまで暫しお待ちを……。
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