襲撃前
出発の支度をすると俺達は徒歩での移動を再開した。
地図を見るクミャリョの先導で、どっちに向かっているかも分からないままついていくだけだった。
3日間、俺は風景に飽きることはなかった。
地面は薄黄色の石が波打っていて平らな場所がほとんどない。いつも上がるか下がるかの移動だった。道のような場所では転がっている石も小さく、道から左右に離れるに従って転がっている石も大きくなっていった。石の大きさを見極めて道を見つけるなんて初めての経験だった。そして離れるほど大きくなっていく左右の石ころの遥か先には突き出たようにそびえる巨岩が必ず見えた。かっちり角のある直線的な岩もあれば、欠けて角が取れた岩もあった。遠くで船のように見え、近づくと城のように見え、横を通ると形が変わって動物のように見えた。通り過ぎて振り返ると石を投げる巨人に見えたりもした。
人の住む集落も思ったより数が多かった。坂を上がったり岩の角を曲がると急に目の前に現れた。穴があっても底に川のない集落も多かった。そういうところでは穴の底に井戸が掘られていた。貯水池がある集落もあった。
岩盤の崩落範囲が幅500メートルで長さ1キロ近い巨大な穴の集落があった。岩の角を曲がってそれを目にしたときは自分の立っている高さが地面なのか高台なのか分からなくなった。
そこの穴も基本的には垂直だったが、縁には垂直の段差がいくつもできていた。これまでの集落でも見てきたのだが、人は開いた穴を拡大させるため周囲を削っていく。普通の穴掘りならある程度の傾斜が穴にできるけどここは頑丈な岩盤なので拡張のための穴掘りがまっすぐなのだ。表面から削っていった面積がそのまま底の地面の面積になる。そしてここも俺が詳しくなってしまったところ、岩盤の下には水が流れる丸い砂利だらけの帯水層があって、その下に肥沃な粘土質の地層があるというのがチョア地方の土地で、そのため最初の岩より下に掘っても横から崩れてしまって塞がるだけだから岩以外はほとんど掘らない。岩をくりぬいてその下の地面を使うという生活を村人は何年も続けている。薄黄色で水の染み込みやすい表面の岩も便利で利用価値があるので放置はされていない。切り出した石も売り物になるということだった。
その穴の広い村では穴の底にも家が建っていて人が生活していた。2階建の立派な木造家屋が並んでいた。家は4軒で、升目に配置したように正方形の中に正確に建てられていた。庭のようなものも見えない。田舎なのに都会の城塞の民家のようだ。俺はその家をじっと観察して、中は見えないが、おそらくこの集落の権力者の家なんだろうと判断した。
その村全体を見て分かったのは、穴の広さがその村の強さだということだ。そこは他より圧倒的に豊かで、人々の服や装飾のレベルが違った。
襲撃を計画している身分としては考えることが多かった。特に考えるのが、逆の立場でこういう集落を守るとしたらどうすればよいかということだった。
穴の下の地面が資源で、そこを守らなければいけないのに、穴の底に陣を構えると不利でしかない。周囲に砦を築いて守るのが基本になるが、豊かになるには穴を広げなくてはいけない。ふいごのように地表の穴を狭くして表面の岩盤をピラミッド型にくりぬいていくというのも手だが、日の差さない地面になってしまっては広げた意味があまりない。ちょっと穴を広げるだけでも何年もかかるから奪う方が楽だ。奪いやすく守りにくいという悪夢のような土地がこのチョア地方ということになる。こんなところに軍隊が来て村の男を徴兵すると言ってきたら言う通りにするしかないのかもしれない。
村の拡大を諦めて防壁を築き、籠城を決めこむのが一番の選択肢だと思う。穴の外に水も土も無いからちゃんと防御できれば今度は攻める方が不利だ。
そんなことを考えながら大きい穴の村も通りすぎ、夕方に別の集落に到着すると、みんなから離れてまた地図を確認していたクミャリョが俺たちの所に戻ってきて言った。「よし、明日には着くぞ」
ここまでの道のりで、現在位置が分からくなっていた。穴から穴へ、集落から集落へと道に沿って移動してきた。道はどんどん普通の地面と区別が付かなくなり、集落はどんどん小さくなっていた。ただ小さくなるだけでなく、三角池から離れるほど、集落が意図的に擬態をするようになった。見つけやすい窓が外側に付かなくなり、穴の周囲に簡単な薄黄色の垂れ幕や目隠しが設置されているのを見るようになった。村がよそ者に厳しくなっていき、だんだん交流や交易に重きを置かなくなっていく変化を感じた。




