出発と略奪トーク
当然だが俺たちの喧嘩騒ぎを朝の行商人や旅人たちはかなりあけすけに見ていた。見ながら通りすぎる者だけでなく、しっかり足を止めて遠巻きに見ている人間もたくさんいた。それらは一通り騒動が終わるとまた朝の忙しさを思い出して元に戻っていった。人の出入りの多い町なのでこういう騒動に皆が慣れているし、距離の取り方もわきまえていた。
視線が徐々に剥れていくのを感じながら通りを曲がって南門の共用井戸に出た。釣瓶の付いた大きい井戸だった。直径が両手を広げたより大きい。周りに板が敷かれて、その下に掘られた溝が川の方へと伸びていた。
ヒャギオガはまだ口をゆすいだところで、鼻血の付いたシャツを着たままだった。ゆすいで口から出した水には血が混じっていた。井戸のまわりにはほかにも流れ者といった様子のガラの悪い連中が何人かうろついていた。ギリツグはその中でも若い、俺の知らない冒険者らしきグループとおしゃべりしていた。小脇にはヒャギオガの兜を抱えていた。全員が笑顔で楽しそうだった。そんなわけがないのだが、若者同士で笑っているのを見ると悪口を言われている気がして苛ついてくる。
俺は威嚇するように無言で井戸に近づくと、転がっている桶を拾って井戸のそばに置き、釣瓶を落とした。井戸は浅い。せいぜい5,6メートルだ。俺はギリツグとその会話していたグループがこっちをちらちら見ているのを感じながら、そちらと目を合わせないようにして桶に水を汲んだ。その場で簡単に自分に付いた泥を落とすと、置いた共用の桶に水を移した。
何か会話をしていたようだったが、俺がいる間は会話は再開されなかった。俺は桶を持って最後にちらっとだけヒャギオガとギリツグを見た。目が合ったので、桶を軽く持ち上げて「向こうで泥を落としてくる」とだけ言った。向こうもはいとだけ返事をした。
なんか感じ悪いなと思った。
共同井戸から戻って斜めの角度から南門を見た。20メートルの防壁が上から下まで視界に入る。太陽が出て影が長く町の中へと伸びていた。俺が立っている場所もクミャリョがいる場所も日陰なので眩しくはない。南門からは人がどんどん入ってきていた。クミャリョたちは邪魔にならないように横に立っていた。そこは待ち合わせをしている人たちの溜まり場になっていた。他にも立ち話をしながらどこに移動するでもない人のグループがいくつかあった。クミャリョたちは布切れで自分たちの泥を落としていた。グループには“干し肉”のチト・シリリュが加わっていた。彼は蓋の開いた水筒を手に持っていて、その状態で皆と話していた。
チトはクミャリョに誘われた5人の中でも最年少の15歳だった。身長はキュビュドよりはちょっと高いくらい——繰り返すがキュビュドの発育は悪いのだ——で体格はでかめ。黒い髪をいつもきちんと短く刈り込んでいた。人相は悪く、いつも細い垂れ目でじっと睨むような顔をしていた。左顎から首、そして肩にかけて広い火傷の跡がある。ほかにも顔にいくつも向こう傷を付けていた。この仕事の声を掛けられたことからも分かるように、チトの冒険者としてのキャリアは若手ながらすでに王道から外れ始めていた。
仕事を選ばなかったチトが悪いのか、元々の才能があったのか分からない。彼は借金の取り立てや裏切り者の制裁といった仕事を受けるようになり、それをこなしていくうちに怪物退治とか護衛やお使いといった仕事が無くなったのである。殺しの仕事をしたという話は聞かない。しかし、人を痛めつけて二度と逆らえないようにすることに関しては定評があった。
店にいると、目の血走った男が入ってきて、店内にいるチトに、「うちの娘をどこにやった?」と問い詰めるところを見たことがある。老け顔の彼は15歳とは思えない落ち着き払った声で、席から立ち上がることもせずに、「俺は知らない。紹介しただけだ。連れていった男を紹介しようか?」と言うだけだった。俺は相手の反応を待った。男はチトを睨んでいた。歯をくいしばり何か言おうとして何も言えないでいた。チトは、「教えるなとは言われてないんだ。案内するぜ」と言って男に手のひらを差し出した。それが金銭の要求だというのは誰の目にも明らかだった。
そのあとにどうなったかは覚えてない。覚えてないということは何も起こらなかったんだろう。
俺は剣を持ってちゃんと決闘するならチトやクミャリョ、それにガ・シュノナ、ギリツグに勝てる自信がある。“痙攣”のキュビュドは『戦闘』なら勝てると思うが逆に『決闘』になると分からない。奴のナイフは1対1だと滅法強い。まあ、彼は馬鹿にしない限りは気のいい奴なので仲良くやっていけば警戒するような人間じゃない。チトは強くはないが安心できる奴じゃなかった。若者特有のノールールぶりというか、人にどう思われようと気にしない部分が強いというか、むしろ自分で自分を危ない奴だとアピールしている節もあった。めんどくさい奴なのだ。そういう意味では同じくめんどくさいヒャギオガとの相性は絶対によくないだろうと思った。
そのチトは笑顔で水筒を振っている。俺の水を待つ前に彼の水筒の水で汚れ落としが始まったということは一目で分かった。
俺は桶を持ったまま近づいていった。キュビュドが最初に俺に気がついた。そのタイミングで俺の方から、「せっかく汲んできたのに無駄だったな~」と声をかけた。他の面子も俺の方を向いた。
「おはようございます」チトが挨拶をした。
俺は桶を持ってそのまま近づいていった。結局、チトからそれ以上の挨拶はなかった。
「おはよう」俺は桶を地面に置いた。「アニョーボ・ニツハだ。今回はよろしく」
手を出すとチトも無感情に手を出してそれを握ってきた。「よろしくお願いします」
「……」名乗らないのか。「チトだったな。15歳だっけ?」
「あ、はい。そうです」
握手した手が固くなった。顔にも素直に、え、なんでこのおっさんは俺の年齢を知ってるのという警戒心が表れていた。
「俺のことは知ってる?」
「いえ、知りません」
「そうか」俺は手を離した。「まあ、とにかくよろしく」俺は置いた桶を持ち上げた。「水の補給がいるだろ? これを使ってくれ」
「あ、はい」チトは自分の水筒の口を差し出した。
俺はそこに向かって桶の水を注いだ。
クミャリョとガ・シュノナが自分の水筒の水を出して飲み始めた。「余ったらこっちにもくれ」
俺は頷いてそっちにも水をまわし、最後に自分も飲んで桶を空にした。
井戸に桶を返そうと体の向きを変えた。水のやりとりをしているうちにギリツグが戻ってくるかと思ったが予想が外れてまだ戻ってこなかった。「これを返すついでにあいつらを呼んでくる」俺はそう言ってまたクミャリョたちから離れた。
チトがなんとなく俺を警戒しているのは伝わってきた。笑顔で水筒の水を配っていたのに俺が来たら表情が固くなったからだ。嫌っているということはないだろう。単に向こうが俺を知らないだけだ。
白樺三叉路村を拠点にしている冒険者はせいぜい25人から30人といったところだ。それも普段は村から離れているので村にいる人数の平均で言うと10人くらい。行ったり来たりを繰り返すうちに1年で顔を覚えて25人くらいだと分かるというのが俺の感覚だ。そして人の出入りが多く、商品を運んだり売ったり買ったりするついでに頼まれ事をこなす準冒険者みたいなのが100人くらいいる。こういうタイプは一期一会だったり数年後にふらっと再会したりと、ゆるく付き合いがある。
俺は12歳で兵役に出て、15歳から傭兵になり、22歳で冒険者になった。24からの5年間をこの白樺三叉路村ベースにやって今がある。新人のチトを覚えているのも当たり前のことだ。俺にとっては新人を1人把握するだけだからだ。そして向こうが俺を知らないのも仕方ない。俺は地味なので人の注目は集めない。最初に新人が覚えるのは顔役のチトゼ・ポメレとか実力者のジテ・シリオガとかそのあたりで一杯一杯だ。
ただ俺は地味でも最初は人を殺すのが仕事だったのでほかの冒険者よりそういうのに慣れているのは確かだ。村を襲撃して略奪するのも初めてじゃない。経験者として言わせてもらえば略奪が楽しいのは確かだ。襲撃前に略奪していいぞと言われれば兵隊としてはテンションが上がる。ただ、今回のように軍や組織の後ろ盾のないフリーの略奪というのは初めてだった。山賊や盗賊と何が違うんだと言われると俺も分からないが、今回は冒険者だけで男が徴用されて女だけになった村を襲撃するという仕事なので、盗賊とはたぶん違う。6人とか7人というのは少ないとは思わない。田舎の村ならそのくらいいれば充分に制圧できる。女を犯して子供は奴隷にして、どの家にも1つや2つは隠し持っている金や宝石の類を奪えば1年か2年は遊んで暮らせるはずだった。楽しみじゃないと言えば嘘になる。それに若者は略奪のやり方を知らない可能性も高い。略奪ってのはこうやるんだよとギリツグに教えてやるのもそれはそれで楽しみだった。
井戸ではギリツグとヒャギオガが、彼らと似たような若手としゃべっていた。人を待たせていることを忘れて笑顔になっている。
俺は急速に苛ついた。「おい」自分でも感情が抑えられていなかった。傭兵団だったらこの後ろにもっときつい言葉が付いていた。それがなかったのは、自分がもう傭兵ではないという自覚と、自分がこのパーティのリーダーではないという自覚があったからだ。
まあ、冒険者なのにリーダーじゃないのに若者にやたら絡みたがる年寄りというのもそこら中にいる。俺はマシな方だ。
ヘラヘラ笑っていた若者たちは口をつぐんだ。ギリツグは叱られた子供の仕草で下を見ている。殴られたヒャギオガの方が反発して俺を睨んでいた。
「みんな待ってるぞ」俺は共同の桶を井戸のまわりに置いた。
俺にはそのあとの態度の選択肢というのがあったと思う。1つは腕を組んで仁王立ちになり若者が動き出すのを待つというものだ。威張るベテランという態度だ。俺が取ったのは別の行動だった。桶を置くと、言うだけ言っただけといった感じで緊張を解き、フランクに手を振って背中を向けるというものだ。表情にも苛立ちを消した。実際に俺は『おい』と一言言っただけでいくらか気が晴れていた。鉄拳制裁を喰らった若者がそのあとで友達とヘラヘラ笑い話にしてしまう気持ちも分からなくはなかった。あとは俺のあとからついてくるに任せた。
井戸から戻ってクミャリョたちの姿を見た。向こうは手を振り、「来た来た」と言った。
俺が振り返ると、少し離れてギリツグとヒャギオガが歩いているのが見えた。
俺は中間地点で彼らを待つようなことはせず、そのまま歩いてクミャリョたちと合流した。「呼んできたぞ」
「ありがとう」クミャリョは言った。
そこで俺は改めてみんなと一緒にギリツグたち若者がやってくるのを見た。ヒャギオガは俺よりもクミャリョを見ていた。恨んでいるような、恐れているような、微妙な表情をしている。
クミャリョの方は笑顔を浮かべている。とはいえ、俺から見ると必要以上に気さくな雰囲気を出して水に流そうとしている感じだった。ギリツグはそれを見てほっとしていた。横のヒャギオガの背中を叩く。ヒャギオガは迷惑そうにその手を払う真似をした。その顔から少し緊張が抜けていた。バカには場を和ませる力があった。
「ここから乗り合い馬車で三角池の村まで行く。そこからは俺が道案内する。馬が借りれそうなら借りるが、行き当たりばったりだからあまり期待しないでくれ」
というわけでそこから三日間はただの移動になった。道中の人間に全部を聞かれないように小出しにして、俺はこの話の詳細を聞いていった。
まだ10代の4人——痙攣のキュビュド、斜視バカのギリツグ、その連れヒャギオガ、そして干し肉のチト——は略奪そのものに興奮していてあまり聞こうとしなかった。俺はそいつらに、自分がやってきた略奪話を小出しにして聞かせた。なんでも好き放題に女をやりまくり、ムカつく奴を雑に殺してその辺に切り捨てた話をすると若者はわくわくしていた。早く村に着かないかなと話だけで股間を固くして馬鹿にされたりした。無邪気なものだった。
真面目に話を聞いたのは俺とガ・シュノナくらいだ。
クミャリョが話を聞いたのは流れ者の1人で、そいつが戦争に参加して戦場で見たという話だった。戦場で合流した南からの大隊がとにかく人をかき集めて参加して、しかも捨て駒としてほぼ全滅してしまったということだった。クミャリョはその南からの大隊というのがどういうルートで村々に寄って男を集めたのかということを把握したのだ。
ガ・シュノナは話を聞いているうちにどのあたりの村が今回の目標か当たりがついたらしい。クミャリョと2人でしか通じない目印の話をやりとりした。聞いていた俺はなんとなく、そこが渓谷と丘に囲まれた辺鄙な土地らしいということしか分からなかった。2人が把握できるということは幻の桃源郷のようなガセネタではなさそうだ。どんな土地かは知らないけど大抵の村は家が20前後だしそこで戦える男というのも20人いない。“まともに”戦える男となると片手で足りるのが普通で、徴兵で何人ももっていかれたのなら問題ないだろう。
俺は野営で火を囲んでいるときに講釈をぶったりもした。「略奪で大事なのは一番偉い奴とか強そうな奴を最初に見せしめにすることだ。そうすればあとは抵抗もなくなるからスムーズに進む。とにかくボスを、なんだったら囲んでもいいからボコボコにする。それがコツだ。それに失敗すると見せしめを増やさないといけなくなる」
「まるで何度もやってきたみたいな言い草だな。どこの話だ?」ガ・シュノナが合いの手を入れた。
「北の戦争のときだ。俺がいた部隊は北上しながら途中の村を全部略奪していった。14日間で16の村を焼いた」
キュビュドが、ひゅーと口笛を吹いた。「それはすごいな」
これまでのやりとりで、略奪をしたことがある人間は自分だけだと分かった。それでついつい話を盛ってしまった。16の村という数字に嘘はなかったが、俺がやったのは実際には隠れている村人がいないか虱潰しに家に入って、人がいたら引きずり出す仕事だった。最初に見せしめで村人を殺すのは騎士の偉い奴だし、豪邸に略奪に入るのも偉い奴や強い奴だけだった。俺はまだ子供だったから、略奪の残り滓がないかを探しまわるネズミみたいな役回りしかやらせてもらえなかった。これ以上殺すなと命令されるくらいだった。ほんとうにおいしいところは偉い奴にもっていかれた。犯した女もすでに痣だらけ血だらけで半分気絶していたから締まりもクソもなかった。それを、金銀財宝を両手に掴んでうはうはで、逃げようとする女の髪を掴んで後ろから腰を打ち付ける最高のレイプに創作して語った。これは大いにウケた。
レイプをする話では、どれだけ女に残酷なことをしたかを“女嫌い”クミャリョが聞きたがった。俺は見たり聞いたりした話を語って聞かせたが、ありきたりな拷問ではクミャリョは満足しなかった。なんとか頑張ったが俺の想像力の貧しさのせいで作り話は無理だった。実際、略奪で女を拷問したりすることはほぼない。クミャリョは異常に興奮して、「それでどんなことをしたんだ? 最後には殺したのか?」などと聞くのだが、男は賢者タイムになればそんなことをする気にはならないし、次の順番を待ってる男だっている。略奪でも女は殺さない。俺はそういうもんだと学んでいた。だから、今回の仕事ではクミャリョが最初から女を殺すつもりになっている点に違和感を覚えていた。それは略奪のルールに反する。男は殺してもいいが女は生かしておくのがルールだ。「俺たちはオークじゃない」
「オークはどんなことするんだ?」クミャリョは粘る。目を異様に光らせて、鼻息荒く、オークによる襲撃の話を聞きたがる。
一番若手のチトがこの話を引き継いだ。「俺の地元は西の方にあって、ラギデチュの近くだ」
俺も含めた全員がラギデチュ辺境という言葉の意味を理解する。チトの話を聞くために皆が口を閉じて彼を見た。焚き火の明かりで彼の顔はゆらゆら揺れていた。彼自身は炎の中に思い出が映っているかのようにじっと見入っていた。
「襲撃があって難民が押し寄せてきて村も一杯になった。みんなボロボロで、この世の地獄を見てきたような顔をしていた。大人たちが矢倉に登ってわーわー言ってたな。俺が略奪の跡を見に行けたのは4日後だった。みんなで様子を見に行こうってことになった」
みんな黙って続きを待った。
「ほとんどの家が燃えていて、村を守るために戦った男たちがあちこちに転がっていた。オークやゴブリンの死骸もそのままだったな。すごい臭いだった」チトはちょっとだけ顔を上げてみんなの反応を窺った。それから視線を戻した。「トロールが好きな例の串刺しもあちこちに立ってた。足の方から食われていて胸から上だけになってた。腸がだらーんと下がっていて蠅がたかっていた」それからふっと息を抜いた。なぜか笑顔を浮かべた。「あれは略奪じゃない」
「ラギデチュには人間も混じってるって聞くけど本当なのか?」俺が質問した。
「聞いた話だとそういうことだった。コボルトやゴブリンに混じって人間もいたって言ってた。すごい入れ墨にボロボロの服だから人間に見えないらしい」
キュビュドが手に持ったナイフで遊びながら、「どうせならラギデチュの村を略奪したいな」と言った。
誰も返事をしなかった。チトだけでなくみんな知ってることだが、たまに討伐隊が編成されて復讐に乗り出すことがある。だが、復讐心は満たされても遠征の元が取れないのでがっかりした結果になる。何匹殺したところでしばらくしたら大群が回復して襲ってくる。色々と事情があって、西の亜人たちの村の略奪を積極的にやろうという人間はそれほど数が多くなかった。
「僕も、言うこと聞かないと西に送ちゃうよって親によく言われた」ギリツグが笑いながら言った。「とにかく西の鬼は怖いんだって」
「怖いっていうより、ただ話が通じないんだよな」チトは横になった。まるで独り言のような口調だった。「一匹一匹は弱い。数がすごいだけだ。もうめちゃめちゃ」
しばらく皆が黙った。このまま寝ようかと俺は思った。
「それで」とクミャリョが沈黙を破った。「辺境の奴らは女をどんな風に殺るんだ?」
ほかの全員が——ヒャギオガですらワンテンポ遅れて——「おい」だの「おおーい」だのと突っ込みを入れた。あくまで笑いながらだ。クミャリョがわくわくしながら質問したが、それに眉をひそめる人間はいない。俺も含めて、クミャリョのそういうところはこの場では許容範囲内なのだ。どちらかというと笑い話になった。他の面子ではこうはならなかったと思う。
聞かれたチトもちょっと笑顔を浮かべた。「連中にとっては女子供の方が美味いらしい。血抜きして丁寧に仕込んでから喰う奴もいれば、痛めつけて固くなった奴が好きなのもいるみたいだ」
「へー、味が違うのかな?」
「分かんねえよ」チトは笑った。
「今度、食べ比べてみよ」
「おい」俺は笑い顔で突っ込んだ。「お前が言うと冗談なのか分かんねえよ」
そこでみんなの笑いが起こった。クミャリョなら本当に女の食べ比べをやりかねないという気持ちもなかったといえば嘘になる。冗談にすることでその場が丸くなった。
ギリツグがちょっと間を置いて言った。「え? 女の人っておいしいの? 僕、食べたことない」
ガ・シュノナが絶妙のタイミングで言う。「うまいぞ。汁気たっぷりだ」そして果物の汁を吸う真似をしてじゅるじゅると音を立てた。
ぎゃはははとギリツグ以外が爆笑した。その夜はお開きになった。




