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残党 その2

 底に下りるための最後の隅に到着した。どこのごうが発射して装填中かは意識したがどこがまだってないかまで意識できなかった。

 とにかく他より低い位置にある射手控えの壕はロープでぶら下がったキュビュドをったので大丈夫と信じて夢中になって走った。そこが正面にある。丸盾は左に構えてそちらの矢を警戒した。

 岩をくりぬいて作られた通路は通りやすく、また、右側の壁には汚れがいくつも付いていた。街の路地の壁のようだ。正面の壁の下を見ると、布のかけられた小さい窓があり、その横にはぽっかりと開いた、ちゃんと立って人が出入りできる穴があった。その手前の地面には小柄のキュビュドが小さく丸くなっている。足や手の向きに変なところはないが背を丸くして動けないでいた。そしてその周りに長い槍を持った長髪の女が3人立っていた。槍の穂先をキュビュドに向けて囲んでいる。髪は周囲の岩のような薄い黄色。これはあとでその色に染めているのだと分かった。服も薄黄色。肌にも何かを塗っているようで、模様になっていた。上からだと顔は見えないが親子か何かだと思うくらいには雰囲気が似ていた。キュビュドを見ながら俺の方を真ん中の背の高い女がチラっと見た。恐怖に怯えたいい顔をしていた。そして俺に見えるように、動けないキュビュドを3人でタイミングを合わせて同時に刺した。防具を何も身につけていない彼は3本の槍をまったく防げてなかった。3人が槍を抜き、キュビュドは身をよじって立ち上がった。彼が袖口からナイフを出す方が次の槍が突き出されるより早かった。3人がまた一斉に槍を突き出した。キュビュドは胴体への攻撃を巧みにナイフではじき、1人の足への攻撃だけをまともに喰らって、「うっ」とうめいた。膝より下、すねを刺されていた。そこからの3人は“ちくちく”という表現がぴったりなほど槍を細かく突いていった。ナイフを振り回してその攻撃を弾くが、キュビュドの体にあっというまに傷が増えていきその服が赤黒く染まった。そして遂に首と顔に槍が刺さり血が派手に吹き出した。そこからも“ちくちく”と攻撃が続いた。

 俺はキュビュドが最初の攻撃を受けたときに階段の上で足を止めたがすぐに階段を下りようと走った。その最中に脇を覗き込むと、下に転がり落ちたクミャリョの周りにも別の女が2人いた。俺は階段の上に立つと丸盾をキュビュドを刺している3人の真ん中に向かって投げつけ、自分の両手剣を抜いて構えた。荷物運搬でするように右肩を右の壁に押しつけて支えてこすりながら急階段を駆け下りた。

 柔らかい地面を踏んだときには3人の槍はこちらに向けられていた。

 真ん中の女が母親のようだった。長い髪を後ろで束ねている。地毛の茶色が生え際に出ていた。顔にも薄黄色の化粧をほどこしていて、まるで戦化粧をした戦士のようだ。切れ長の目で俺を睨んでいる。その表情から人殺しに慣れてはいないがキュビュドが初めてでもないということを俺は感じ取った。後悔も嫌悪感も残ってはいるが、俺に対して躊躇は感じていない。

 左右の女の子はずっと若い。とはいえ15歳より下には見えなかった。槍の構えにもちゃんと肩の力が抜けている。

 俺は力任せに剣を振り回し、相手の槍3本を弾いた。そのまま近づくと真ん中の1人を脇腹から横にかっさばいた。防具を身につけていないから楽勝だった。若い2人を無視してクミャリョを囲んでいる2人に向かうと、やはりその中で年配らしき女に狙いを定めて袈裟切りに剣を振り下ろした。きっちり刃が入る感触が手に返ってきた。

 壁の底の周回には掘られた住居が並んでいたが、俺は中に人がいないのを確認してそこの出入口を背にすると剣を構えた。「おうおうおう。諦めて武器を捨てやがれ。お前らの母ちゃんは今すぐ手当てをすれば助かるぞ」

 残った少女たちは斬られた女を心配そうに見たが槍は持ったままだった。

 底の全周の壁に出入口の薄暗い穴があった。その中から女と子供がふっと光の中に出てきた。ほとんどが槍を持っている。そのほかにちらっと見て3人、いしゆみを持った女がいた。俺は壁際から駆け出してまた階段に取り付くと剣を収めた。そして今度は手を使って急階段を上がり一目散に通路を走った。途中で息が切れて目もかすれたが必死に体を動かした。

 戻るときのヒャギオガは俯せではなく横を向いていた。体の右側を下にして浅い息をする彼を俺はもう一度またいで、そのまま立坑を上がっていった。一度だけ矢を射掛けられ、それが胴体に当たった。石のやじり鎖帷子くさりかたびらに当たって砕けその下の服にも傷を付けた。肌までは届かなかった。

 階段を上り切るところで立っている女が視界に入った。目だけ出して顔をすべて布で覆うという服装の女が2人いる。さらに顔を出すと遠くにさらに4人の人影があった。そしてガ・シュノナとギリツグは地面に倒れていた。出血は見えなかった。

「くそっ」俺は背中を向けて、もう動けないと思っていた状態からさらに走り出した。

 もちろん逃げきれなかった。背中に衝撃を受けた。今度の矢は鎖帷子を抜いて背中のどこかに刺さった。


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