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残党 その1

「いい案だが、そのあとはどうする?」

「そのあと下まで下りる。お前の知ったことか?」キュビュドは俺に質問されるのは心外といった顔で愛想悪く言った。顎を階段の方に振って、「黙って見てろ」と言った。

 俺も覗いたときに階段のある手前左側のごうが低い位置にあるのは見ていた。そこの壁には通路がないので、通路を一周して降りたところの敵を狙いやすい位置にあるのは分かった。

 なんか罠くさくもある……俺は思ったが何も言わなかった。

 ギリツグが背負袋から太い麻のロープを出した。一見して一番下までは届かない長さなのが分かる。首と脇の下に一周させたあと腕にも巻き付けると、「ん」と言ってキュビュドを見た。

「おう」と言って反対を持って腕に巻き付けた。

 2人でいるときにこの作戦を既に話し合っていたようで、ほとんど会話をせずに準備だけ進めていく。俺とガ・シュノナが口を挟む間もなく、巨体のギリツグが小柄なキュビュドをロープで吊るす用意があっという間にできてしまった。目標である階段の左側へと向かった。

「おっと待った。陽動くらいはするよ」俺は言って落ちていたチトの丸盾を持ち階段へと向かった。

 キュビュドはちらっと俺を見たが何も言わなかった。

 穴に近づくにつれて自然と背が下がった。俺も目が悪い方ではないが20メートル程度しか離れていない場所から射られる短いいしゆみの矢を見切れるほどやばい能力は持っていない。丸盾は顔よりちょっと大きい程度で、全身を隠すにはまるで頼りにならない。それでも俺は頭隠して尻隠さずのことわざのように、体を小さくしてなるべく盾に体を隠して階段に近づいた。ヒャギオガが俯せになって倒れている。生きているか死んでいるかも分からない。盾の陰から顔をちょっと出して覗いた先ではクミャリョが俺と同じように丸くなっていた。こっちを見上げている。

 通路の階段は穴を横に掘った構造になっていた。頭上が斜めに削られていて上から死角ができないようになっている。階段は他の集落と同じく急角度になっていて、45度どころか70度くらいあった。背中を向けて後ろ向きに下がらないと危ないくらいの角度だ。踏み幅も爪先から土踏まずくらいまでしかない。かかとを付いて下りるにはかなり危険を覚悟しないと無理だった。そして階段に立って気づいたが、周囲の壁はわずかにオーバーハングしていた。上が張り出しているので飛び降りたときに壁にしがみつくのが物理的に不可能な造りだ。キュビュドが飛び降りたとき、壕に取り付くには体を揺らす必要があるだろう。

 俺はしゃがんで丸盾で正面から身を守りながら、ゆっくりと前向きに階段の最初の一段を下りた。脛当てがあるとはいえ足を伸ばすのは勇気が必要だった。理屈ではこんなぴょこんと伸ばした足を弩で狙うのは難しいとは思っていた。しかし、階段を下りる方向から見て正面の壁にある銃眼じゅうがんは震えて動けなくなるくらい近くにあった。一気に駆け下りるのは無理と諦めた俺は、いしゆみの速射性の低さに賭けて第一射を盾で防ぎ切ることに全力を注いでいた。当然、左側ががら空きになり、そちらの壕からは隙だらけだった。

 最初の一段から先には進めない。とても無理だ。

 俺はこの陽動が成功してキュビュドが動くのを待った。彼が下りるのは俺の後ろだが、下りたら絶対に気づくくらいに俺はそちらに神経を配っていた。もちろん、一番気を配ったのは正面の銃眼だが。

 実際には数秒の間が、10分にも感じられた後に、後方でキュビュドが降下を開始したのが分かった。ちらっと振り返るとギリツグが手元のロープをどんどんと送り出している。するすると下がっていったところで俺にとっては階段の死角になって見えなくなった。身を乗り出して目の前の銃眼にうなじを晒して覗き込むほどの勇気はない。しかしここで撤退してもジリ貧なのは分かっていたので、意を決して俺は階段を下りていった。矢が飛んできた。脇腹の辺りに当たった感触があった。鎖のベストが弾いて矢が穴の下へと落ちていった。俺はもっと大胆になり、急階段を一気に下りていった。左側から矢が飛んできたがこれも俺に当たったが肩当てで弾かれて石の壁にぶつかった。ガツッという木の矢の音が聞こえた。俺はもう無我夢中で矢を見切るなんてことも考えずに動くことだけに集中した。最初の隅へと走る。そこから次の角を見ると、クミャリョもその角にはいなくて、行動を開始していた。中間のヒャギオガだけが動いていない。邪魔ではあったがまたいで進めないほど塞いでいるわけではなかった。視界の隅では立坑の高さ半分くらいの位置のロープからキュビュドが落下していた。俺はその先を見なかった。階段と同じように上が斜めに掘られて壕から狙い放題になっている通路を急いで進む。

 ヒャギオガの肩は動いていて呼吸をしていた。俺は横になっている彼の体と壁の間にある狭く見えている通路に足をねじこみ、ちょっと彼をずらすと一気にまたいだ。そのときに背後から矢が飛んできて俺の兜に当たった。助かったなどと一息ついたりもしないでクミャリョがいた隅にたどりつくと、何も考えずに次の角へと足を進めた。クミャリョも動きを止めていなかった。

 落ちたキュビュドの姿が見やすい位置になった。しかし俺は自分の進む通路だけを見るようにした。正面には別の銃眼がある。止まらずに動く。俺は階段の反対側の短辺の通路も一気に駆け抜けた。途中で一瞬、一か八かで飛び降りようかと思った。しかし走る自分の装備の重さも判断してそれは無理だと思った。

 先の角を曲がって横に動くクミャリョが背中をのけぞらせ、無様に倒れるとそのまま通路からこぼれて地面へと長い落下を始めた。彼が地面に叩きつけられた。身体がまったくバウンドせず、加速する落下から速度0の静止状態になり、俺は思わず「うっ」と言ってしまった。あれは無事では済まない。


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